当院も参加した1型糖尿病の方へのインスリンポンプのメディセーフウィズの研究から得られた知見を解説してみます

院長の澤木秀明です。

アメリカ合衆国のシカゴで開催されましたADA(米国糖尿病学会)2025にて
澤木内科・糖尿病クリニックが参加した1型糖尿病の方へのパッチポンプのメディセーフウィズに関する研究を主任研究者の東京女子医科大学三浦順之助先生から発表いただきました。

澤木内科・糖尿病クリニックでは、1型糖尿病治療に注力しているため、メディセーフウィズについても本邦で発売当初から、取り扱えるように準備し、外来で入院せずにインスリンポンプが導入・開始できるようにしています。
そのため、当院はメディセーフウィズの先行導入施設に選ばれておりました。(詳細はこちら

メディセーフウィズ(Medisafe WITH)を使った研究について

●研究の始まりと目的

メディセーフウィズ(Medisafe WITH)は、日本の会社「テルモ」が作ったパッチ型インスリンポンプという道具です。このポンプは、体に貼りつけて使うもので、インスリンという血糖値を下げる薬を自動的に体に入れてくれます。しかも、インスリンの入ったタンク(リザーバー)を取り外すことができるという特徴があります。この製品は2018年から使われるようになりました。

この研究の目的は、この新しいタイプのポンプが本当に安全で、しっかり効果があるのかを調べることです。

●どんな研究だったの?

この研究は、日本中のいろいろな病院で行われたもので、全部で**26週間(約半年)**にわたって、ポンプを使った患者さんのデータを集めました。
※「後向き観察研究」とは、すでに起こったこと(過去の記録)を調べる方法のことです。

この研究の対象となったのは、2019年6月1日から2023年6月30日までの間にメディセーフウィズを使い始めた1型糖尿病の患者さんです。
ただし、医師が「この人は研究には合わない」と判断した場合は、参加していません。

研究では、次のような情報を集めました。

  • メディセーフウィズを使い始めた日

  • その前後の治療の内容

  • 使い始めて26週間たった時点での医療に関する出来事(トラブルなど)

  • 途中でやめた場合はその理由

●何を調べたの?

この研究で一番大事なポイント(主要評価項目)は、次の2つでした:

  1. **糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)**がどれくらい起こったか
     →これは、インスリンが足りなくなったときに起こる、命に関わることもあるトラブルです。

  2. **重い低血糖(SH)**がどれくらい起こったか
     →これは、血糖値が下がりすぎて、意識を失ったり倒れたりするような状態のことです。

それに加えて、次のような項目(副次評価項目)も調べました:

  • HbA1c(過去1〜2か月の血糖の平均)

  • BMI(身長と体重のバランス)

  • インスリンの量の変化

  • 治療をやめた理由

●結果はどうだった?

日本全国の20の病院やクリニックで、135人の患者さんがこのポンプを使いました。患者さんの平均年齢は32歳で、糖尿病になってからの年数は中央値で10年(4〜18年)でした。

観察期間(患者全員を合計した日数)は22,865人・日でした。この間に起こったトラブルは次のとおりです:

  • 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA):0.22回/1,000人・日
    (つまり、1,000人が1日使って0.22回という、ごくまれな発生率)

  • 重い低血糖(SH):0.13回/1,000人・日
    (こちらもかなりまれに起こる程度)

また、HbA1cは、

  • 最初:7.8 ± 1.4%

  • 26週間後:7.5 ± 1.3%

と、少し下がっていて、統計的にもしっかり意味のある改善でした(p = 0.014)。

治療を途中でやめた人は**16人(全体の11.9%)**で、**続けられた人は88.1%**でした。やめた人のうち、

  • 63%の人は、別の会社のインスリンポンプに切り替え

  • 残りの人は、1日に何回か注射する治療に戻りました

●まとめ(結論)

メディセーフウィズを使うときには、万が一のトラブルに備えて、次のようなことをあらかじめしっかり教えておくことが大切です:

  • インスリンペン(手で注射する道具)を緊急時のために持ち歩くこと

  • 血糖値をこまめにチェックできる機械(リアルタイムCGMなど)を使う、または自分で頻繁に血糖測定をすること

  • なにかあったときは、メーカーのコールセンターや医療機関にすぐ連絡すること

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