こんにちは。澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。
今回は、私も著者として参加した研究論文を、なるべくわかりやすくご紹介します。
📌 この記事のポイント
- 1型糖尿病では、血糖値だけでなく「こころの負担」も大切な問題です。
- CGM(持続血糖測定)のデータをAIで分析すると、「つらさが強い方」を事前に見つけられる可能性があります。
- 10種類のAIモデルを比較した結果、ニューラルネットワークがもっとも高い精度を示しました。
- 「低血糖リスク」「血糖の波の大きさ」「性別」が、こころの負担と特に関係していました。
「糖尿病ディストレス」って、何ですか?
1型糖尿病を持つ方は、毎日のインスリン調整・食事・低血糖への備えなど、とにかく考えることが多いです。
そうした毎日の中で、
- 「低血糖が怖くて外に出られない」
- 「頑張っているのに、うまくいかない」
- 「血糖のことが、頭から離れない」
- 「治療に、もう疲れてしまった」
といった気持ちの重さや疲れを感じることがあります。
これを「糖尿病ディストレス」と呼びます。放っておくと、治療を続けるやる気が落ちたり、血糖コントロールにも影響することが知られています。
今回の研究で調べたこと
この研究では、全国10施設の成人1型糖尿病の方259名のデータを使いました。
CGMから得られる数値(平均血糖・TIR・低血糖の頻度・血糖の波など)をもとに、10種類のAIモデルを比較して、「糖尿病ディストレスが強い方を見つけられるか」を検討しました。
ディストレスの重さは、PAID(ペイド)スコアという質問票で評価しています。40点以上を「ディストレスが強い状態」と定義しました。
「ニューラルネットワーク」って、どんなAIですか?
少し専門的な言葉ですが、ニューラルネットワークとは
人間の脳の神経の仕組みをモデルにしたAIのことです。
たくさんの情報が複雑に絡み合っているとき、「どの組み合わせに問題が起きやすいか」を読み取るのが得意です。
かんたんに言うと…
血糖の数字を1つずつ見るのではなく、いくつもの情報をまとめて読んで、
「しんどさのサイン」を早めに見つけるAI、というイメージです。
研究の結果は?
10種類のAIモデルを比べた結果、ニューラルネットワークが最もバランスよく高い成績を示しました(正解率74%・AUC 0.728)。
また、「こころの負担」と特に関係が深かった情報は、次の5つでした。
- LBGI(低血糖リスクの指標)― 最も重要でした
- 性別(女性のほうがディストレスが高い傾向)
- CV(血糖の波の大きさ)
- TIR(目標範囲内の時間)
- 平均血糖値
特に低血糖リスクが一番重要な要素として浮かび上がったことは、日常の診療の実感とも一致します。
HbA1cの数字はそれほど悪くなくても、
- 「低血糖が怖くて、高めにしてしまっている」
- 「夜中の低血糖が不安で、眠れない夜がある」
- 「血糖の上がり下がりに、気持ちが振り回される」
という方は、実は少なくないのです。
この研究が大切な理由
今回の研究が伝えたいことは、「糖尿病の診療は、数値を見るだけでは不十分かもしれない」ということです。
見た目の数字が悪くなくても、患者さんの内側では大きな疲れや不安が積み重なっていることがあります。CGMのデータを丁寧に読み解くことで、そうした見えにくい「しんどさのサイン」を早めに拾える可能性があります。
もちろん、AIだけで気持ちを完全に理解することはできません。でも、患者さんの困りごとに早く気づくための「きっかけ」として、とても大切な一歩だと考えています。
当院が大切にしていること
当院では、1型糖尿病の診療で「数字を見ること」と「気持ちを聞くこと」の両方を大事にしています。
CGMを見れば、TIR・低血糖の頻度・食後の動き・夜間の変化など、たくさんのことが分かります。でも本当に大切なのは、そのデータの向こうにある
- なぜその血糖になったのか
- 何がいちばん不安なのか
- どうすれば、無理なく続けられるのか
を一緒に考えることです。
今回の研究に関わったことで、低血糖への恐怖や血糖の波のストレスが、患者さんの生活の質に直結する大きな問題であると、あらためて実感しました。
「数値を改善しましょう」で終わるのではなく、生活に合った、続けやすい治療を一緒に探していくことを、当院は大切にしています。
こんなお悩み、ありませんか?
- CGMをつけていても、数字に振り回されてしんどい
- 低血糖が怖くて、血糖を高めにしてしまいがち
- 血糖の波が大きく、気持ちまで疲れてしまう
- 主治医には言いにくい不安や悩みを抱えている
- インスリンポンプやCGMをもっとうまく使いたい
こうした悩みは、決して珍しいことではありません。1型糖尿病の方は真面目な方が多く、表向きはうまくやれていても、心の中ではかなり疲れておられることがあります。
最後に
今回の研究は、CGMデータとAIを組み合わせることで、1型糖尿病の「見えにくいしんどさ」を早めに見つけられる可能性を示したものです。
当院では、血糖・生活・気持ちの3つをまとめて支える診療を目指しています。
「今の治療をもう少し楽にしたい」「低血糖の不安を減らしたい」「数字だけでなく、しんどさも分かってほしい」と感じておられる方は、どうぞお気軽にご相談ください。
【論文情報】

Sakane N, et al. A machine learning approach to predicting severe diabetes distress in adults with type 1 diabetes mellitus.
Journal of Diabetes Investigation 2026; 17: 689–697.
※本記事は論文内容を患者さん向けにわかりやすくご紹介したものです。
研究結果は今後さらなる検証が必要であり、AIのみで個々の患者さんの状態を判断するものではありません。

