この記事は2026年10月時点の情報です。
こんにちは。
澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。
2026年10月10日(土)・11日(日)、大阪府堺市のフェニーチェ堺(堺市民芸術文化ホール)にて開催された「第25回日本先進糖尿病治療・1型糖尿病研究会」(会長:能宗伸輔先生、近畿大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科)に参加してまいりました。今回のテーマは「成因解明と先進医療の融合が切り拓く未来」でした。

ノーベル賞受賞 坂口志文先生のご講演「制御性T細胞と自己免疫病」
今回の研究会では、2025年ノーベル生理学・医学賞を受賞された、大阪大学の坂口志文先生による特別講演「制御性T細胞と自己免疫病」を拝聴する機会がありました。
坂口先生は、1976年に京都大学医学部をご卒業後、米国ジョンズ・ホプキンス大学、ハーバード大学への留学を経て、京都大学・大阪大学で長年研究を続けてこられました。免疫の「ブレーキ役」を担う「制御性T細胞(Treg)」を発見し、その仕組みを明らかにされたご功績が評価され、2025年のノーベル賞受賞に至っています。
講演では、まず「自己免疫病」がどのようなメカニズムで起こるのか、という基本的な考え方からお話しいただきました。私たちの免疫は、本来、感染症などの外敵から体を守るための仕組みです。しかし、この仕組みが自分自身の組織に向かってしまうと、1型糖尿病をはじめ、甲状腺炎や関節リウマチといった「自己免疫病」が起こります。人口の約10%が、何らかの自己免疫病に関連しているとされています。
坂口先生のご研究は、「健康な人では、なぜ自分を攻撃するリンパ球が暴走しないのか」という問いから始まりました。マウスを使った実験で、ある特定の時期に特定の臓器を取り除くと全身に自己免疫病が引き起こされることを発見し、そこから「免疫を抑える専門のリンパ球」、すなわち制御性T細胞(Treg)の存在を明らかにされました。後年、このTregの働きに重要な「FOXP3」という遺伝子も特定されており、この遺伝子に生まれつき異常があると、乳児期から重い自己免疫病を発症してしまうこともわかっています。
特に印象的だったのは、「自分の体を攻撃しうるリンパ球は、健康な人の体の中にも、誰にでも存在している」というお話でした。1型糖尿病についていえば、インスリンを作る細胞を攻撃しうるリンパ球は、健康な方の体内にも一定数存在しているものの、Tregによってその働きが普段は抑えられている、ということになります。自己免疫病は「特別な異物」が原因というより、普段は働いているはずのブレーキ役(Treg)が、何らかの理由でうまく機能しなくなることで発症しうる、という考え方です。
また、先進国で感染症が減ってきたのと同時に、1型糖尿病やアレルギー疾患が増えてきているという、いわゆる「衛生仮説」にも触れられました。免疫の「起こす力」と「抑える力」のバランスが、感染症の少ない環境ではかえって崩れやすくなるのではないか、という考え方だそうです。

この学会には1型糖尿病の根治を目指す研究者の方々、そしてご自身が1型糖尿病でありながら研究に携わっておられる方々が多く参加されています。坂口先生のお話は、基礎研究の最前線に立ちながらも、臨床応用への道筋を具体的に示してくださるもので、会場全体に大きな期待が広がっているのを感じました。日々の診療では、今ある治療法をどう患者さんにお届けするかに力を注いでいますが、その先には、こうした基礎研究の積み重ねがあることを、あらためて実感する講演でした。
REAL J研究 post hoc解析のご報告(神戸大学・小林基子先生)
もうひとつ、当院にとって特に関係の深い発表が、一般演題4「先進デバイス」セッション(10月10日13:50〜14:50)の中で行われました。
演題番号O4-6「リアルタイムCGM使用下の1型糖尿病の血糖マネジメントとアラートとの関連の検討:REAL J研究 post hoc解析」として、神戸大学大学院医学系研究科の小林基子先生が発表されたものです。筆頭演者の小林先生をはじめ、全国の施設の先生方との共同研究で、澤木秀明(澤木内科・糖尿病クリニック)も共著者として名を連ねています。
REAL J研究は、リアルタイムCGM(持続血糖モニター)を使用されている1型糖尿病の患者さんを対象とした、国内の多施設共同研究です。当院も参加施設のひとつとして、データの収集にご協力いただいた患者さんがいらっしゃいます。この場をお借りして、あらためて御礼申し上げます。

どのような解析だったか
今回のpost hoc解析(当初の主要な解析のあとに行われた、追加の探索的な解析)では、次のような対象・方法で検討が行われました。
- 対象:HbA1c 7.5%以上の1型糖尿病の患者さん154例
- 使用機器:デクスコムG6を26週間連続して使用
- 検討内容:「急上昇アラート」「急降下アラート」を設定しているかどうかで、血糖管理(HbA1cの変化)に違いがあるかを比較
主な結果(26週時点)
- 急上昇アラートを設定していたグループは、設定していないグループに比べて、HbA1cの低下幅が大きくなっていました(設定群-1.18% vs 非設定群-0.68%、p=0.026)
- 急降下アラートについても、同様の傾向がみられました(設定群-1.04% vs 非設定群-0.67%、p=0.043)
- 多変量線形回帰解析でも、急上昇アラートの設定は、他の要因を調整したうえでなお、HbA1cの改善と独立して関連していました(β=-0.45)
これらの結果から、発表では「急上昇アラートの活用は、リアルタイムCGMによる血糖管理の最適化に有用である」と結論づけられていました。

CGMは、ただ装着すればよいというものではなく、アラートをご自身に合わせてどう設定するかが、血糖管理の質を左右する一因になりうる、ということを、あらためて示すデータだと感じています。当院でも、CGMを導入される際には、アラートの値を「とりあえずそのまま」にせず、患者さんの生活リズムや低血糖・高血糖の自覚症状の出方に合わせて、一緒に調整するようにしています。CGMをお使いの患者さんで、アラート設定について見直してみたい方は、外来でぜひご相談ください。
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