インスリンが「当たり前に手に入らない」時代へ ― ノボ社の販売中止・リリー社の限定出荷について患者さんへ

糖尿病の治療

この記事は2026年10月15日時点の情報です。

こんにちは。澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。

2026年10月、インスリンを製造販売している製薬企業から、医療機関に向けて相次いで重要な案内が届きました。長年、多くの患者さんの治療を支えてきたインスリン製剤のいくつかが、今後手に入らなくなります。

今回は、インスリンで治療中の患者さんとご家族に向けて、「何が起きているのか」「今、何をすればよいのか」を、メーカーの公式資料にもとづいてお伝えします。

最初にお伝えしたいこと
・今日・明日にインスリンがなくなるわけではありません。ご自身の判断で主治医との相談なく、インスリンを減らしたり、中止したりしないでください。
・切り替えが必要な方には、主治医が時期と方法を考えてご提案します。次回の受診時に、今お使いのインスリンの名前を一緒に確認しましょう。

2026年10月に何が起きたのか

ノボ ノルディスク ファーマが複数のインスリンの販売中止を案内

ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、2026年10月付の医療関係者向け資料で、下記のインスリン製剤について2028年3月を目途に販売を中止する予定であることを案内しました。

販売中止予定の製品 インスリンの種類
ノボラピッド注 フレックスタッチ 超速効型
ノボラピッド50ミックス注 フレックスペン 混合型(超速効型+中間型)
ノボリンR注 フレックスペン 速効型(ヒト インスリン)
ノボリンN注 フレックスペン 中間型(ヒト インスリン)
ノボリン30R注 フレックスペン 混合型(ヒト インスリン)
レベミル注 フレックスペン 持効型
レベミル注 ペンフィル 持効型(カートリッジ)

このうちノボラピッド注 フレックスタッチは、すでに出荷が停止されています。ただし、同じ成分のノボラピッド注 フレックスペンは今回の販売中止の対象には入っておらず、注入器の種類を変えることで治療を続けることができます。

私が特に重く受け止めているのは、ノボリンR・ノボリンN・ノボリン30Rといったヒト インスリン製剤と、レベミルが対象に含まれていることです。今回対象となったタイプのインスリン製剤は、国内ではノボ社とリリー社のほぼ2社が供給してきたもので、その一方がなくなることになります。レベミルは他社になく、事実上、市場から、レベミル(インスリンデテミル)は入手できなくなることになります。

日本イーライリリーは一部インスリンの「限定出荷」を開始

この案内を受けて、日本イーライリリー株式会社は2026年10月14日から、下記の製品を「限定出荷(他社品の影響)」とすることを医療関係者に案内しました。

  • ヒューマログミックス50注 ミリオペン
  • ヒューマリン3/7注 ミリオペン
  • ヒューマリンR注 ミリオペン
  • ヒューマリンN注 ミリオペン
  • インスリン グラルギンBS注カート「リリー」
  • インスリン グラルギンBS注ミリオペン「リリー」

リリー社の説明によると、通常の需要に見合う在庫は確保しているものの、他社製品の販売中止にともなう切り替え需要までまかなえるほどの在庫はないため、現在これらの製剤で治療を続けている患者さんへの供給を優先する、とのことです。あわせて、他社インスリンの代わりとしての処方は控えるよう、医療機関に依頼しています。

つまり、「ノボ社の製品がなくなるなら、同じタイプのリリー社の製品に切り替えればよい」という道も、簡単には選べない状況になっています。

現在これらのインスリンをお使いの方へ

リリー社の対象製品をお使いの方

リリー社の限定出荷は、今お使いの患者さんへの供給を守るための措置です。出荷量そのものは「通常」とされており、これまでどおり処方を続けられる見込みです。ご心配な方は受診時にお声がけください。

ノボ社の販売中止予定の製品をお使いの方

販売中止の目途は2028年3月で、それまでに時間はあります。とはいえ、在庫状況によっては予定より早く入手しにくくなる可能性もあるため、当院では主治医と相談しながら、余裕をもって計画的に切り替えていくことを考えています。

ノボ社は資料の中で、代替薬の候補として同社の製品(ノボラピッド30ミックス注、ライゾデグ配合注、ノボラピッド注 フレックスペン、トレシーバ注など)を挙げています。ただし、インスリンは種類によって効き始めの時間や効いている時間が異なり、注射のタイミングや回数が変わることもあります。どの製剤が合うかは、生活のリズム、食事、血糖の動き、低血糖の起こりやすさなどを見て一人ひとり決めるものです。

切り替えの時期は、血糖の変化に注意が必要です
インスリンの種類が変わると、同じつもりで注射していても血糖の動きが変わることがあります。切り替え後しばらくは、自己血糖測定やCGM(持続血糖測定)で血糖の様子を確認し、低血糖の症状(冷や汗、手のふるえ、動悸など)にいつも以上に気をつけてください。

妊娠を希望されている方・妊娠中の方

レベミル(インスリンデテミル)は、妊娠中の使用について臨床試験のデータがあり、妊娠を希望される方や妊娠中の方に長く使われてきたインスリンです。そのレベミルが市場からなくなることは、該当する患者さんにとって大きな不安だと思います。

妊娠前後はインスリンの必要量が大きく変わる時期でもあり、切り替えはできるだけ落ち着いた時期に、慎重に進めることが大切です。妊娠を考えている方、妊娠中の方は、早めに主治医にご相談ください。必要に応じて産科の先生とも連携して進めます。

すべての患者さんへのお願い

  • インスリンを主治医との対話なく、自己判断で減らしたり、中止したりしないでください。
  • 次回の受診時に、お薬手帳で製品名をご確認ください。
  • 必要以上の多めの処方(買いだめ)は、ほかの患者さんに届く分を減らしてしまうおそれがあります。必要量をきちんと確保できるよう当院で配慮しますので、ご協力をお願いします。
  • 災害への備えとして、数日分の予備をお持ちいただくことは引き続き大切です。

当院の対応

当院では、対象となる製剤をお使いの患者さんを確認し、受診のタイミングに合わせて順次ご説明と切り替えのご相談を進めてまいります。切り替えの際には、患者さんの生活に合った製剤を選び、必要に応じてCGMも活用しながら、血糖の変化を丁寧に見ていきます。

インスリンの供給が不安定になると、治療そのものを続けにくくなる方が出てきてしまうのではないかと心配しています。当院は「世の中から、糖尿病難民をなくす」ことを目標にしています。供給の問題で治療が途切れる方が出ないよう、できることを続けていきます。

院長としての思い

 

院長 澤木秀明
院長 澤木秀明

今回の判断は、製薬企業が世界全体の状況を見たうえで決めたことだと理解しています。一方で、今もこれらの製剤を必要としている患者さんがいることも事実です。ヒト インスリン製剤や、妊娠中の方が安心して使ってきたインスリンが手に入らなくなることに、私は一人の医療者として強い危機感を覚えています。

インスリンは、1型糖尿病の方にとっては命に直結する薬です。「インスリンを作るメーカーが、インスリンを作らなくなる」時代が来ているのだとしたら、それが本当に正しい方向なのか、関係する方々に改めて考えていただきたいと願っています。

患者さんには、不安な気持ちを抱えたまま一人で判断せず、まずはご相談いただきたいと思います。一緒に、今のあなたに合った治療を考えていきましょう。

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【参考】
・ノボ ノルディスク ファーマ株式会社「販売中止に関するご案内」医療関係者向け資料(2026年10月)
・日本イーライリリー株式会社「ノボ ノルディスクファーマ株式会社 インスリン製剤の製造販売中止案内に伴う弊社インスリン製剤に関するご案内」医療関係者向け資料(2026年10月)
・Mathiesen ER, et al. Maternal glycemic control and hypoglycemia in type 1 diabetic pregnancy: a randomized trial of insulin detemir versus NPH insulin. Diabetes Care. 2012;35(10):2012-2017.(本試験はノボ ノルディスク社の資金提供により実施されました)

※このページは2026年10月時点の情報にもとづく、一般的な情報提供を目的としたものです。個々の治療内容や切り替えについては、自己判断せず主治医にご相談ください。

※内容に変更があった場合は、当院で把握しだい記事を更新いたします。

※記事の内容に誤りや古い情報を見つけられた場合は、お手数ですが当院までご連絡いただけますと幸いです。確認のうえ、速やかに訂正いたします。