「階段のわずかな段差でつまずいてしまった」
「平地なのに転けそうになったよ」
「ペットボトルのふたが硬く感じてしまうんです!」
「若い時にくらべたら、筋肉量が減っているだろうし、仕方がないなあ」
「運動しないので、筋肉が少なくなって、糖尿病になったのかしら」
「糖尿病になったから、筋肉が減ったのかな?」

糖尿病のご高齢の皆様、こんなお悩み、思い当たりませんか?

実はその状態、「フレイル(加齢による虚弱)」かもしれません。

そしてこのフレイルは糖尿病と深く関わっていることが分かってきています

フレイルとは・・・高齢期の“見えない心や体の変化”

日本老年医学会ではフレイルをこう定義しています。

加齢に伴って予備能力が低下し、ストレスに対する脆弱性(弱くなってしまうこと)が増す状態。
身体的、精神・心理的、社会的な側面を含む。

身体的、精神(心理)的、社会的な側面というのは、具体的には以下のような事柄を指します。

  • 身体的フレイル:筋力の低下や、低栄養
  • 精神的フレイル:うつ状態や意欲・認知機能低下
  • 社会的フレイル:ひきこもり、孤立、孤食、社会的サポートの欠如

糖尿病とフレイルの関係は?

糖尿病がある方は、フレイルのリスクが高いことが
国内外の研究で報告されています。

そのうえ、フレイルになると、糖尿病を悪化させる
という互いに悪循環を形成する
とされています。

糖尿病で血糖値が高くなると、すなわち高血糖が続く炎症が起きたり、インスリンの効きが悪くなります。
結果、筋肉が減りやすい状態になります。

するとフレイルを引き起こしやすくなります。

また、筋肉は糖を取り込んでエネルギーとして使ってくれるという大切な働きをしています。
つまり、筋肉は血糖値を下げるうえでとても重要な役割を担っています。

そのためフレイルによって筋力が低下してしまうと、さらに血糖値が上がってしまう、という悪循環が起きてしまいます。

血糖値を下げることがフレイルの予防に

血糖値を下げることはフレイルを予防し、糖尿病の合併症の進展を抑えることで、
筋肉・脳・神経・骨の健康を守ることにもつながります。

そのためには、以下の3つがカギになります。

① 食事で血糖値の急上昇を防ぐ

  • 炭水化物は単独ではなく、野菜・たんぱく質と一緒に。炭水化物(糖質)を最後に回すと、効果的です。
    (例えば丼ものや麺類など”炭水化物のみ”の食事は血糖値が上がりやすくなります)
  • 野菜は1食120g以上が理想
    (味噌汁に入れると手軽です)
  • 3食ともタンパク質もとりましょう。
    野菜に集中しすぎると筋肉の原料である蛋白が減ってしまいます。
  • よく噛む、ゆっくり食べることで血糖の上昇を抑える
    (固い食べ物など自然に噛む回数が増える食材を取り入れましょう)

②運動を継続して、筋力を維持しましょう

週2~3回の軽い筋トレ(7秒スクワットやかかと上げなど)がおすすめです。
ウォーキングや体操、水泳などの有酸素運動と組み合わせるとより効果的です

歩行などの単純な運動や日常生活の活動量を増加させることでも、身体能力向上が期待できます。
できることから取り組みましょう。

動けるうちに動くことが、将来の“自立”を守ります。
楽しく長続きする運動に取組む。
継続は力なりですね!

③ HbA1cの目標値(一般的には7%未満)を意識して生活する

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の目標値は一般的には7%未満ですが、個別に設定されます。

65歳未満、65歳以上、75歳以上などの年齢の違いや
認知症の有無やあった場合どの程度か、
ADL日常生活動作などの運動量の状態、
低血糖を起こしやすい糖尿病薬を使っていないかなど
使用している薬剤も参考にします。

HbA1cが下がっていると嬉しいのですが、低血糖が隠れていることがあります。
また、過度の食事制限をすると、栄養不足のリスクもあり、
結果、原料となる筋肉不足になり、フレイルのリスクも上がります。

あなたのヘモグロビンエーワンシーの目標値は6%未満?7%未満?8%未満?でしょうか。
じつはHbA1cの目標値はもっと細分化されています。
受診されたときに、糖尿病治療中の方は、主治医とぜひ目標値について話し合ってください。

ご自身の目標値を主治医に確認してみましょう。

フレイルかも?自己チェックリスト

以下のうち、3つ以上当てはまる方は要注意です。

  1. 半年で2kg以上体重が減った
  2. 以前よりも疲れやすくなった
  3. 歩くのが遅くなった
  4. 外出する頻度が減った。軽い運動や体操などを週1回もしていない。
  5. 筋力が落ちたと感じる(ペットボトルのフタが開けにくいなど)

気になる場合は、早めに医師へご相談ください。
管理栄養士による栄養相談(栄養指導)が役立つ場面をよく経験します。

まとめ:糖尿病と向き合いながら、健康寿命をのばす

糖尿病があると、フレイルになりやすくなります。

しかし、血糖値を下げる工夫と、HbA1cのコントロール、適切な食事運動を意識することで、フレイルの予防につながります。

大切なのは「糖尿病=怖い病気」と思い込むことではなく、
正しく知り、コツコツ向き合うこと。
糖尿病はおそれず、あなどらず。
そうすれば、歳を重ねても元気に過ごせる未来がきっと待っています。

 


参考文献・出典
Landi F, Onder G, Bernabei R: Sarcopenia and diabetes: two sides of the same coin. J Am Med Dir Assoc 2013; 14: 540-541.
Kalyani RR, Tian J, Xue QL, et al: Hyperglycemia and incidence of frailty and lower extremity mobility limitations in older women. J Am Geriatr Soc 2012; 60: 1701-1707.

日本老年医学会 フレイルの定義

厚生労働省 健康日本21アクション支援システム健康づくりサポートネット

日本糖尿病学会 高齢者糖尿病診療ガイドライン