災害から自分を守るために|糖尿病の方の備え、インスリンとお薬をどう守るか

糖尿病の治療
非常持ち出し袋とお薬手帳を確認する女性(イメージ)
この記事は2026年9月時点の情報です。日本糖尿病学会・日本糖尿病協会(JADEC)による「糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024」と、2026年に早期公開された委員会報告「災害時糖尿病診療マニュアルのエッセンス」をもとに作成しています。

こんにちは。
澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。

「地震や台風のとき、インスリンってどうしたらいいんでしょうか」

外来でときどきいただくご質問です。備えているようで、実は何を、どれだけ準備すればよいのか、意外とはっきりしないという方が多いのではないでしょうか。

このたび、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会(JADEC)が、熊本地震などの経験を踏まえて「糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル」を改訂し、その要点をまとめた最新の報告が、2026年9月30日発行予定の学会誌『糖尿病』に先立って早期公開されました。

当院でも、正式発行を待たずにいち早くその内容をご紹介します。このページでは、その内容から、患者さんに知っておいていただきたいポイントを整理してお伝えします。災害への備えは、ご家族やまわりの方のためだけではなく、何より患者さんご自身を守るためのものです。

なぜ、糖尿病の方にとって備えが特に大切なのか

東京都の被害想定報告書によれば、大規模地震が起きた場合、ライフラインの復旧には電力で4日、上水道で17日、ガスでは約6週間かかると想定されています。

この間、糖尿病の治療を「いつも通り」続けるのは簡単ではありません。

食事や水分が十分に摂れない、治療薬やインスリンが手元にない、いつもの受診ができない。こうした状況が重なると、高血糖や低血糖、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)といった、命に関わる状態につながるおそれがあります。

だからこそ、マニュアルでは「インスリン製剤はライフラインの一つと考えるべき」と強調されています。

食料は3日〜1週間、治療薬・器材は1〜2週間を目安に

マニュアルが推奨しているのは、次の備蓄です。

院長 澤木秀明
院長 澤木秀明
  • 食料・飲料水:非常食は最低3日分、できれば1週間分
  • 治療薬・医療器材:経口血糖降下薬、インスリン製剤、インスリン自己注射関連の器材、CSII(インスリンポンプ)の器材、血糖自己測定(SMBG)関連器材などを、1〜2週間分

食料の備蓄には、「ローリングストック法」が勧められています。

日持ちする食材を普段から少し多めに買っておき、消費した分だけ買い足していく方法です。特別な非常食を新たに揃えなくても、無理なく備蓄を続けられます。

非常持ち出し袋に入れておきたいもの

マニュアルに示されているチェックリストをもとに、糖尿病の方に特に関わる部分をまとめました。

糖尿病関連
経口薬/インスリン自己注射セット/CSII(インスリンポンプ)の器材/GLP-1受容体作動薬(注射剤)/血糖自己測定器/低血糖時のためのブドウ糖
お薬の情報・保険資格を確認できるもの
JADEC連携手帳/お薬手帳(または処方箋の写し)/マイナ保険証(健康保険証利用登録をしたマイナンバーカード)、またはお持ちでない場合は資格確認書
そのほか
懐中電灯・電池/携帯電話の充電器/飲料水/非常食/室内履き/常備薬・消毒液・ばんそうこう・体温計・マスクなどの救急箱一式
院長 澤木秀明
院長 澤木秀明

お薬手帳やJADEC連携手帳(旧:糖尿病連携手帳)は、記載されている情報を携帯電話のカメラで撮影しておくことも有効です。紙の手帳を持ち出せなくても、写真データが残っていれば、避難先で薬剤名や量を正確に伝えられます。

1型糖尿病・インスリン依存状態の方は、インスリンを絶対に中断しないでください

マニュアルが繰り返し強調しているのが、この点です。特に

院長 澤木秀明
院長 澤木秀明

1型糖尿病の方、インスリンが体の中でほとんど作られていない方(インスリン依存状態)は、たとえ食事が摂れない状況でも、インスリン注射を自己判断で中止してはいけません。

1型糖尿病やインスリン依存状態では、食事が摂れないときでも、基礎インスリン(持効型溶解インスリンなど:ランタスXR、グラルギン、レベミルなど)は、通常と同じ量で投与を継続することが基本です。実際の災害時にも、インスリン注射を自己中断してDKAに至った例が報告されています。

食事のタイミングや量が読めないときは、「食べた量に合わせて、食後に追加インスリンを打つ」という順番に変えることも、安全な対処法として紹介されています。

災害発生直後の超急性期には、血糖目標が「いつもよりやや高め」でよいとされています

院長 澤木秀明
院長 澤木秀明

災害発生直後の超急性期は、低血糖を避けることを最優先し、空腹時血糖値150〜200mg/dL程度の、ふだんより緩めの目標でかまわないとされています。これは災害発生直後の超急性期における目安です。

避難生活では、食事の内容が糖質に偏りやすく、食後に血糖値が上がりやすい一方、水分やインスリンの確保が難しい状況も重なります。

「いつもより数値が高いかもしれない」と知っておくだけで、無用な不安を減らせます。ただし、極端な高血糖や、口の渇き・多尿・強いだるさ・吐き気といったDKAを疑う症状があれば、すみやかに医療機関を受診してください。

シックデイのルールを、災害時にも思い出してください

食事が不安定になる災害時は、いわば「シックデイ」に近い状態です。日頃の診察でお伝えしているシックデイ対応の考え方が、そのまま役立ちます。

食事が摂れないからといって、脱水の危険があるのに服薬を続けたり、逆に体調不良時に中止すべき薬を漫然と続けたりすると、重い副作用につながることがあります。どの薬を、どんなときに休むべきか。ぜひ一度、診察で確認しておいてください。

情報とつながりを絶やさないために

東日本大震災では、固定電話・携帯電話・SMSがほとんど使えなかった一方、LINEやSNSは有効だったと報告されています。JADECも、災害時にインスリン製剤の供給情報などを配信するLINE公式アカウントを運用しています。

災害用伝言ダイヤル(171)や災害用伝言板サービスは、毎月1日・15日など体験利用できる日が決まっています。実際に一度使ってみることで、いざというときに落ち着いて使えるようになります。

CGMやインスリンポンプをお使いの方へ

フリースタイルリブレ2、デクスコムG7、メディセーフウィズスマート、ミニメド780Gなどをお使いの方への備えもお伝えします。マニュアルでは、インスリンポンプ(CSII)の器材について1〜2週間分の備蓄が明確に推奨されています。CGMについては、災害時にも残量と使用状況を確認し、継続して使用することが望ましいとされています。

これらの機器は、平時の使い方だけでなく、災害時の備えという観点でも知っておいていただきたいことがあります。詳しくは、それぞれの記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:リブレの次に知ってほしいCGM「デクスコムG7」とは|精度・アラート・使い方を専門医が解説

▶関連記事:フリースタイルリブレ2(CGM)とは?血糖値の流れを見える化する糖尿病治療(保険診療と選定療養と自費など)

▶関連記事:チューブのないインスリンポンプ|パッチ式「メディセーフウィズスマート」を糖尿病専門医が解説

▶関連ページ:ミニメド780Gとは?自動でインスリンを調整するAID療法【糖尿病専門医が解説】

ご高齢の方、妊娠中の方は、特に注意を

ご高齢の方は、低血糖がめまいや脱力感、ろれつが回らないといった分かりにくい症状で現れたり、まったく症状が出なかったりすることがあります。いつもと違う様子があれば、まず血糖値を確認するか、糖分を摂ってみてください。

妊娠中の方(糖尿病合併妊娠・妊娠糖尿病)は、母体だけでなく赤ちゃんの状態把握も必要になるため、災害時は特に慎重な対応が求められます。発熱や下痢、強い倦怠感、意識がおかしいと感じる場合は、DKAの可能性もあるため、できるだけ速やかに医療機関へ相談・受診してください。

まとめ

食料・飲料水は最低3日分、できれば1週間分。治療薬やインスリン、ポンプの器材などは1〜2週間分を目安に備え、CGMについても可能な場合は、予備のセンサーなど必要な消耗品を準備しておきましょう
お薬手帳やJADEC連携手帳は、写真に撮って携帯電話に保存しておくと安心です
1型糖尿病・インスリン依存状態の方は、食事が摂れなくてもインスリンを自己判断で中断しないでください
災害直後は、低血糖を避けることを優先し、血糖値がいつもよりやや高めでもかまいません
災害時はシックデイに近い状態です。休むべき薬をあらかじめ確認しておきましょう
LINEやSNS、災害用伝言ダイヤル(171)など、複数の連絡手段を知っておきましょう

災害への備えは、一度にすべてを完璧にする必要はありません。それは義務ではなく、患者さんご自身を、いざというときの危険から守るための備えです。まずは今お使いの薬とお薬手帳を、非常持ち出し袋に入れることから始めてみてください。ご不明な点は、診察でお気軽にご相談ください。

【参考】
荒木栄一、安西慶三、小川渉、他.災害時糖尿病診療マニュアルのエッセンス.糖尿病.2026;69(9).早期公開./日本糖尿病学会、日本糖尿病協会「糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024」文光堂、2024/日本糖尿病協会「糖尿病とともに生きる人の災害への備え」(https://www.nittokyo.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=32)

※このページは2026年9月時点の情報にもとづく、一般的な情報提供を目的としたものです。治療の内容や必要な備えは患者さんお一人おひとりで異なりますので、実際の対応にあたっては、必ず主治医にご相談ください。

※内容に変更があった場合は、当院で把握しだい記事を更新いたします。

※記事の内容に誤りや古い情報を見つけられた場合は、お手数ですが当院までご連絡いただけますと幸いです。確認のうえ、速やかに訂正いたします。