インスリンのしこりが血糖値を乱す|注射部位のローテーションが大切な理由

糖尿病の治療

こんにちは。澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。

毎日インスリン注射をされている患者さんと話していると、こんな声をよく聞きます。

「お腹のこのあたりが打ちやすくて、いつもここに打ってしまいます」
「ここは痛くないから、ずっと同じ場所に打っています」

毎日チクッとする注射ですから、少しでも楽な場所を選びたくなるのは自然なことです。気持ちはよくわかります。

ただ、同じ場所に打ち続けることには、見落とされがちな落とし穴があります。

院長 澤木秀明
院長 澤木秀明

このページでは、同じ場所への注射で起こる「注射部位のしこり」と血糖値への影響、そして今日からできる対策を解説します。しこりに気づいたときの対応は特に大切なので、最後まで読んでいただけるとうれしいです。


インスリン注射で血糖値が安定しない原因は、しこりかもしれません

インスリンを同じ場所に繰り返し注射すると、その部分の皮下組織が変化して、しこりができることがあります。

しこりのある部分にインスリンを注射し続けると、インスリンがうまく吸収されなくなります。効き目が遅れたり、弱くなったりするため、「注射しているのに、なぜか血糖値が下がらない…」という状態になり、その結果、インスリンの量が増やされていくことがあります。

⚠️ 特に注意が必要なケース:重症低血糖

増やされたインスリンを、ある日しこりのない正常な皮膚に打つと、同じ量でも、これまでよりインスリンがよく吸収されて効きすぎ、重症低血糖につながることがあります。

注射部位の変化は、血糖値が大きく変動したり、原因のわからない低血糖が起きたりする一因になることがあります。


注射部位のしこりには、主に2つの種類があります

注射部位のしこりや皮下組織の変化には、主に次の2つがあります。両者は異なる病変です。

種類 内容
脂肪肥大(リポハイパートロフィー) インスリンの作用で脂肪の組織が厚く盛り上がる
インスリン由来アミロイドーシス インスリンの成分が皮膚の下で変化し、「アミロイド」という異常なタンパクのかたまりとして沈着する(「インスリンボール」と呼ばれることもあります)

アミロイドが沈着した部分では、正常な部位に比べて、インスリンの吸収が大きく低下することがあります。ただし、低下の程度には差があります。

また、患者さんご自身が触っても、医師が触診しても硬さがわからないのに、皮膚の下にアミロイドが沈着しているケースもあります。触ってわからない変化もあるため、定期的な確認が大切です。


触診だけでは分かりにくい変化を調べる超音波検査

触っただけでは分かりにくい注射部位の変化を見つけるために、通常の超音波検査(エコー)が診察の助けになる場合があります。

組織の硬さを測る「エラストグラフィ」という技術の研究も進んでいます。ただし、検査だけで脂肪肥大とアミロイド沈着を確実に区別できるわけではなく、確定診断に組織の検査が必要なこともあります。超音波検査を追加するかどうかは、診察の所見や検査の体制に応じて判断します。


今日からできる「4つの対策」

① 毎回、注射する場所をずらす(ローテーション)

インスリン注射部位のローテーション(お腹の場合):4つの区画を時計回りに使い、同じ区画の中でも毎回2〜3cmずらして打つ

使っている製剤の指導に従い、同じ部位の中で、前回の注射箇所から少なくとも2〜3cm離して打ちましょう。狭い範囲の2か所を交互に使うのではなく、広く順番に使うことが大切です。

ローテーションのやり方の一例として、日本糖尿病協会の患者さん向けの資料では、次のような方法が紹介されています。

  • お腹などの注射部位を4つの区画に分ける
  • 1つの区画をしばらく使ったら、時計回りに次の区画へ移る
  • 同じ区画の中でも、注射のたびに2〜3cmずつずらして、広い範囲の中で動かす

インスリンを打つ回数は、1日1回の方もいれば、1日4回以上打つ方もいます。打つ回数が多いほど、同じ区画の中で場所が重なりやすくなります。区画を移るタイミング(例えば、1週間ごと、数日ごとなど)は、打つ回数や区画の広さに合わせて決めましょう。

また、食事のインスリンと基礎インスリンなど、種類ごとに打つ部位(お腹・太ももなど)を決めている方は、その部位の中でローテーションしてください。打つ部位によってインスリンの吸収の速さが変わることがあるため、部位を大きく変えるときは主治医に相談しましょう。

ご自身に合ったローテーションの方法は、外来で一緒に決めましょう。

しこり・傷あと・赤みのある場所や、おへそのすぐ周りには打たないようにしましょう。

ローテーションの効果は、データでも示されています。インスリン注射をしている430人を調べた海外の研究では、注射部位の脂肪肥大が約3人に2人(64.4%)に見られました。一方、正しくローテーションしていた方では、脂肪肥大は5%にとどまりました。また、脂肪肥大のある方では、原因のわからない低血糖(39.1%、ない方では5.9%)や、血糖値の大きな変動(49.1%、ない方では6.5%)がずっと多く見られました。注射針を何度も使い回すことも、脂肪肥大の増加と関係していました。

② 注射針は毎回新しいものを使う・打ち方を確認する

注射針は毎回新しいものを使い、再使用しないでください。お腹のほか、太もも・上腕・お尻などを使う場合もありますが、製剤や体格に合った場所、針の長さ、打ち方を確認しましょう。上腕など、自分では正しく打ちにくい部位もあります。

③ 定期的に、医療スタッフに注射部位を確認してもらう

少なくとも年1回は、医療スタッフに注射部位を見て、触って確認してもらいましょう。しこりや皮膚の変化、原因のわからない血糖値の変動があるときは、時期を待たずにご相談ください。

④ しこりへの注射は避け、量の調整と血糖確認を速やかに相談(最重要)

毎回、注射する場所をずらすローテーションは、指導どおり続けてください。

しこりへの注射は避ける必要があります。ただし、しこりに打っていた方が正常な部位に変えると、インスリンの効き方が変わり、低血糖を起こすことがあります。しこりに気づいた時点で、速やかに医療者に連絡してください。正常な部位に変更する際のインスリンの量と、変更後の血糖確認の頻度、低血糖が起きたときの対応を相談してください。

次の注射までに相談できない場合に備えて、対応の方法と、診療時間外の相談先を、あらかじめ確認しておきましょう。相談を待つことを理由に、しこりへ打ち続けたり、インスリンを自己判断で中断したりしないでください。

インスリンポンプの注入部位でも、皮下組織の変化が起こることがあります。注入セットを交換するときは部位をずらし、しこりや皮膚の異常のある場所を避けてください。
  • 低血糖が起きた場合は、事前に指導された方法で対処してください。
  • 意識がはっきりしない、けいれんがある、安全に飲み込めない場合は、周りの方が119番に連絡し、無理に飲食させないでください。
  • 当院では、点滴などの救急処置は行っていません。

まとめ

インスリン治療は、正しく行えば、皆さんの健康と長寿を強力にサポートしてくれる、とても頼りになる治療法です。注射する場所を適切に選び、打ち方や血糖値を確認することは、インスリンを安全に、安定して効かせるために大切です。

院長 澤木秀明
院長 澤木秀明

注射の場所や血糖値のことで気になることがあれば、いつでも外来でご相談ください。一緒に、より良い糖尿病治療を続けていきましょう。

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参考文献

  • 日本糖尿病協会 患者さん向けガイド(インスリン注射部位のローテーション)
  • インスリン製剤 電子添文「重要な基本的注意」(注射箇所は少なくとも前回の注射箇所から2〜3cm離すこと、腫瘤・硬結部位への投与を避けること)
  • Blanco M, et al. Prevalence and risk factors of lipohypertrophy in insulin-injecting patients with diabetes. Diabetes Metab. 2013;39(5):445-453.