※2026年7月、日本糖尿病学会による2023年の診断基準改訂を踏まえて、内容を更新しました。

「病院をかわったとたん、1型糖尿病っていわれました。」

「2型糖尿病だとばかり、思っていましたが1型糖尿病だったんですね。」
糖尿病の専門クリニックの外来では、糖尿病の患者さんから時折、いただく感想になります。
澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。

今回は、緩徐進行1型糖尿病について、2023年に日本糖尿病学会から改訂された最新の診断基準をもとに、内容を更新してお伝えします。
■2型糖尿病と見極めが難しいことがある、緩徐進行(かんじょしんこう)1型糖尿病とは
見た目は小太りの2型糖尿病にみえますが、調べてみたら、緩徐進行1型糖尿病であったという場合があります。詳細は、緩徐進行1型糖尿病の診断基準を下記にしめします。
ざっくりいいますと、自己免疫性糖尿病の目印である、GAD抗体が認められますが、まだ、インスリン分泌は残っている状態ということになります。
自己免疫性の糖尿病のときは、通常はインスリンが早期に作れなくなることが多く、
ただちにインスリン注射が必要になるという背景があります。
将来、ゆっくりとインスリンが作れなくなって、インスリン治療が不可欠になるので、「緩徐進行」と呼ばれています。
■緩徐進行1型糖尿病の診断基準(2023年改訂)
日本糖尿病学会「1型糖尿病における新病態の探索的検討委員会」により、2023年に診断基準が改訂されました。従来(2012年)の基準では、GAD抗体などが陽性であれば、まだインスリンを使わずに血糖コントロールできている段階でも「緩徐進行1型糖尿病」と診断していましたが、新しい基準では、インスリンを作る力がどのくらい残っているかによって、2段階に分けて診断するようになりました。
「緩徐進行1型糖尿病(definite)」と診断されるのは、次の3つすべてを満たす場合です。
- 経過のどこかの時点で、膵島関連自己抗体(GAD抗体、膵島細胞抗体(ICA)、IA-2抗体、ZnT8抗体、インスリン自己抗体のいずれか)が陽性であること
- 糖尿病の診断時、原則としてケトーシスやケトアシドーシスがなく、ただちにインスリン治療が必要な状態ではないこと(参照b)
- 糖尿病の診断から3ヶ月以上経ってからインスリン治療が必要になり、最終的に採血でインスリンを作る力がかなり低下していること(空腹時血清Cペプチドが0.6ng/mL未満)
1と2は満たすものの、3(インスリンを作る力の低下)がそこまで進んでいない場合は、「緩徐進行1型糖尿病(probable)」という診断になります。こちらは、インスリンを使わなくても血糖コントロールできている状態にある糖尿病、ということになります。
参照
b)ソフトドリンクケトーシス(ケトアシドーシス)で発症した場合や、甲状腺疾患を合併している場合など、例外的にケトーシスを伴うことがあります。
出典:島田朗ほか、緩徐進行1型糖尿病の診断基準(2023)―1型糖尿病における新病態の探索的検討委員会報告―、糖尿病66(7):587-591、2023
■「プロバブル」への区分に不安を感じている患者さんへ

この改訂によって、これまで「緩徐進行1型糖尿病」と診断され、インスリン治療を続けてこられた方の中には、採血の結果(空腹時血清Cペプチドが0.6ng/mL以上)によって、新しい基準では「プロバブル」に区分される方がいらっしゃいます。

「今まで1型糖尿病として治療してきたのに、診断が後退してしまったのでは」
とご不安に思われるかもしれません。ここは大切な点なので、丁寧にお伝えしたいと思います。
まず、「プロバブル」は、誤診が正されたという意味ではありません。
GAD抗体などの自己抗体が陽性であるという事実、そして膵臓のベータ細胞が緩やかに壊れていく病気であるという本質は、何も変わっていません。
今回の改訂は、あくまで「今、インスリンを作る力がどのくらい残っているか」という一時点の状態を、より正確に区分するための見直しです。
そして、すでにインスリン治療を続けてこられた方について、この診断区分の変更だけを理由に、治療方針を急に変える必要はありません。治療は、これまでの経過やそのときどきの血糖コントロールの状態を踏まえて、引き続き主治医と相談しながら決めていくものです。
■緩徐進行1型糖尿病を早期に診断し、治療につなげます

臨床像からは2型糖尿病と区別がつきにくいです。膵島関連自己抗体(GAD抗体、ICA抗体など)を測定しないと診断できません。緩徐にインスリン分泌低下が進行します。インスリン依存状態になると血糖コントロールが比較すると、困難になります。その結果、糖尿病合併症の進展・悪化が心配されます。著明な高血糖になる前に一度は膵島関連自己抗体を測定し、早期に診断することが重要となります。
■GAD抗体が陽性だが、インスリン分泌が保たれている場合(プロバブル)、2型糖尿病に準じて治療される場合があります
2型糖尿病の病態を呈する日本での成人糖尿病におけるGAD抗体陽性率は複数の研究合計から、インスリン治療患者を含む横断研究で3.4%、インスリン未使用患者の横断研究では2.2%と報告されています。
出典:川崎英二、日本臨床 内分泌症候群(第3版)、2019
2型糖尿病でたまたま、GAD抗体が検出されましたが、膵ベータ細胞が破壊されない、患者さんがいて、インスリン依存性糖尿病ではない患者さんが存在します。幸運なことにインスリン分泌は残ります。こうした方は、新しい基準では「プロバブル(probable)」にあたります。
■約1/3の症例ではGAD抗体陽性であっても長期間にわたりインスリン治療が必要としません

緩徐進行1型糖尿病の治療戦略としては、代謝性のストレスを減らし、ベータ細胞の再生力を上げて、膵臓のベータ細胞の保護をはかります。細胞傷害性T細胞を減らし、制御性T細胞を増やして、膵島自己免疫の抑制をはかります。実際の治療戦略は未確立であります。
インスリンによって膵臓のベータ細胞の疲弊を取り除いて、糖毒性の解除を目指します。インスリンによって、ベータ細胞刺激による自己抗原発現の亢進や自己反応性T細胞の活性化を抑制し、膵島炎、ベータ細胞破壊の抑制をはかることになります。
■ワンポイントアドバイス


インスリン治療が選択される場合が多いですが、インスリン分泌が保たれていて(プロバブルの段階)、比較的血糖コントロールもいい場合は、2型糖尿病ともいえなくないので、内服薬などのインスリン治療以外も選択される場合があります。
内服薬ではスルホニル尿素薬(SU薬)で他剤に比べ、膵臓ベータ細胞機能保持が劣る結果がでていますので、SU薬以外で、良好な血糖コントロールを目指すことになります。なお、近年ではDPP-4阻害薬が、インスリン依存状態への進行を抑制する可能性を示した研究(SPAN-S研究)も報告されており、今後の治療選択の参考になる知見の一つです。
ご自身の診断区分について疑問がある方、GAD抗体が陽性と言われたことがあるものの詳しい説明を受けていない方は、診察の際にお気軽にご相談ください。


