インスリン強化療法とは?1型糖尿病で1日3回以上の注射やインスリンポンプが勧められる理由【2026年版】

1型糖尿病の方へ インスリン強化療法とは? 1日3回以上の注射・ポンプ・CGM・AID 糖尿病専門医が解説 2026年版 糖尿病の治療

この記事は2026年10月に、米国糖尿病学会(ADA)の最新の診療指針「Standards of Care in Diabetes 2026」をもとに全面的に改訂しました。

こんにちは。澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。

1型糖尿病の患者さんに「1日に何回もインスリンを打つ方法」や「インスリンポンプ」をお勧めすると、こんな声をいただくことがあります。

「1日1〜2回の注射ではだめなんですか?」
「注射の回数が増えるのは大変そう…」

院長 澤木秀明
院長 澤木秀明

注射の回数が増えるのは、確かに大変に感じますよね。それでも1型糖尿病でインスリン強化療法が勧められるのには、30年以上にわたる研究で確かめられた、はっきりした理由があります。そして今は、CGMやインスリンポンプの進歩で、強化療法は「生活に合わせられる治療」へと大きく変わってきました。このページでは、その理由と、今の強化療法の選択肢をご紹介します。


インスリン強化療法とは?

私たちの体では、インスリンが2つのパターンで出ています。1日中少しずつ出ている基礎分泌と、食事のときにすばやく出る追加分泌です。

インスリン強化療法は、この2つのパターンを、できるだけ体本来の出方に近づけて補う治療です。主に次の2つの方法があります。

  • 頻回注射法(MDI):持効型インスリンによる基礎の補充と、毎食前の超速効型インスリンを組み合わせる方法。1日3食の場合、通常は合計4回で、基礎を2回に分ける場合などは回数が増えます。
  • インスリンポンプ療法(CSII):超速効型インスリンを、ポンプで24時間少しずつ注入し(基礎)、食事のときに追加で注入する方法。CGMと連動してインスリン量を自動で調整するAID(自動インスリン注入)もあります。

ADAの最新の指針でも、成人の1型糖尿病の多くの方は、頻回注射法またはインスリンポンプで治療することが勧められています(十分な研究による裏付けがあります。ADAのエビデンス評価:A)。2型糖尿病でも、インスリンが大きく不足している方などでは、強化療法を行うことがあります。

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かつての方法との違い

かつての方法(従来療法)インスリン強化療法
注射の回数1日1〜2回通常1日4回程度(治療内容によって異なります)、またはインスリンポンプ
インスリンの量毎日ほぼ決まった量食事の量や血糖値に合わせて、その都度調整
食事決まった時間に、決まった量を食べる必要がある食べる量や時間に合わせてインスリンを調整できる
生活の自由度治療に生活を合わせる生活に治療を合わせやすい(旅行、夜ふかし、運動なども調整しやすい)

かつての方法では、毎日決まった時間に決まった量のインスリンを打つため、食事や運動の時間も決めておく必要がありました。強化療法では、食べる量に合わせて食事のインスリンを調整できるので、生活の自由度が大きく広がります。


強化療法が勧められる根拠:DCCT研究

1型糖尿病の治療の考え方を大きく変えたのが、米国とカナダで行われたDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)という臨床試験です。1993年に結果が報告されました。

強化療法群従来療法群
治療1日3回以上の注射、またはインスリンポンプ。血糖値を測りながら量を調整し、医療チームが手厚く支援1日1〜2回の注射
DCCT試験期間中の平均HbA1c約7.3%約9.1%
その結果、強化療法群では、目(網膜症)・腎臓(腎症)・神経(神経障害)の合併症が新たに起きたり進んだりするリスクが、従来療法群に比べて大きく低下しました。低下の程度は合併症によって異なりますが、おおむね半減する効果が示されました。この結果は大きな驚きをもって受け止められ、1型糖尿病の治療の標準が「強化療法」へと変わるきっかけになりました。

一方で、DCCTからはもう一つの大切な教訓も得られました。強化療法群では、重い低血糖が従来療法群より多く起こったのです。「HbA1cを下げること」と「低血糖を防ぐこと」をどう両立するかが、その後の大きな課題になりました。

その後の追跡研究(EDIC):よい血糖管理の効果は長く続く

DCCTが終わった後も、参加者の経過を追う研究(EDIC)が続けられています。DCCTの終了後、両方のグループのHbA1cは近い値になりましたが、それでも試験中に強化療法を受けていた方は、その後何年にもわたって、目や腎臓の合併症、さらに心臓や血管の病気が少ないことがわかりました。

この現象は「代謝の記憶(レガシー効果)」と呼ばれています。早い時期からよい血糖管理を続けることが、何十年も先の健康を守ることを示しています。ADAの指針でも、強化療法による血糖管理の効果が長く続くことが紹介されています。


今の強化療法は「低血糖を減らしながら」行う

DCCTの時代から30年以上がたち、強化療法の道具は大きく進歩しました。ADAの最新の指針では、次のような点が勧められています。

  • インスリンの種類:低血糖を減らすため、ヒトインスリンより、超速効型・持効型などのインスリンアナログ製剤が勧められています。
  • CGM(持続血糖測定):診断後早い時期からCGMを治療に取り入れると、血糖管理が改善するとされています。
  • AID(自動インスリン注入):安全に使える1型糖尿病の方には、AIDを優先して勧めるとされています。
  • カーボカウント:食事の炭水化物(さらに脂質やたんぱく質)の量に合わせて食事のインスリンを調整する方法や、高血糖のときの補正の方法を学ぶことが勧められています。
  • 定期的な見直し:インスリンの使い方や、毎日の打ち方は、定期的に一緒に見直していくことが大切です。

血糖管理の目標

妊娠していない多くの成人の方では、HbA1c 7%未満がひとつの目標です(年齢や低血糖の起こりやすさなどによって、一人ひとり調整します)。CGMを使っている方では、次の指標も目標になります。

CGMの指標妊娠していない多くの成人の目標
TIR:血糖値が70〜180mg/dLの範囲にある時間1日の70%超
血糖値が70mg/dL未満の時間4%未満
血糖値が54mg/dL未満の時間1%未満
血糖値が180mg/dLを超える時間25%未満

CGMの目標も、年齢や低血糖のリスクなどに応じて個別に調整します。妊娠中は別の目標を用います。

HbA1cだけでなく「低血糖の時間を減らすこと」も目標に入っているのが、今の強化療法の大きな特徴です。

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強化療法の選択肢

方法特徴
頻回注射法(ペン型)持ち運びやすいペン型の注入器で注射します。通常1日4回程度で、治療内容によって異なります。CGMと組み合わせることで、より細かく調整できます
インスリンポンプ(チューブ式)時間帯ごとに基礎インスリンの量を細かく設定でき、食事のインスリンも計算機能で調整しやすくなります
インスリンポンプ(パッチ式)チューブがなく、体に直接貼るタイプのポンプです
AID(自動インスリン注入)CGMの血糖値に合わせて、ポンプが基礎インスリンなどを自動で調整します。夜間の低血糖や高血糖を減らしやすくなります。ただし、ミニメド780Gなどでは、食事の糖質量を入力し、食事用インスリンを注入する操作が必要です

どの方法が合うかは、生活のリズム、お仕事や学校、機械の操作への慣れ、ご本人の希望などによって異なります。

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院長 澤木秀明
院長 澤木秀明

当院では、1型糖尿病の方のCGMやインスリンポンプ(AIDを含む)の診療を行っています。「今の注射の方法が自分に合っているか」「ポンプを試してみたい」など、どんなことでも外来でご相談ください。一人ひとりの生活に合った方法を一緒に考えます。


まとめ

  • インスリン強化療法は、体本来の基礎分泌と追加分泌に近づけてインスリンを補う治療で、頻回注射法とインスリンポンプがあります。
  • DCCT研究で、強化療法により目・腎臓・神経の合併症が起きたり進んだりするリスクがおおむね半減することが示され、その効果は長く続くことがわかりました。
  • 一方で、強化療法では低血糖が増えることも課題でした。
  • 今は、インスリンアナログ製剤、CGM、AIDの進歩により、低血糖を減らしながら強化療法を行えるようになっています。
  • どの方法が合うかは、生活や希望に合わせて一緒に決めていきます。

▶澤木内科・糖尿病クリニック公式サイト(1型糖尿病・CGM・インスリンポンプの診療をおこなっています)

参考文献

  • American Diabetes Association Professional Practice Committee. 9. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care 2026;49(Suppl. 1):S183. https://doi.org/10.2337/dc26-S009
  • The Diabetes Control and Complications Trial Research Group. The effect of intensive treatment of diabetes on the development and progression of long-term complications in insulin-dependent diabetes mellitus. N Engl J Med 1993;329:977–986.