糖尿病の薬、なぜ人によって違う?体質に合わせた2型糖尿病の薬物療法を専門医が解説

糖尿病の治療

糖尿病の治療

こんにちは。 澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。

「先生、待合室で会った患者さんと、お薬が全然違うんです。 同じ糖尿病なのに、なぜですか?」

外来で、そう聞かれることがあります。

糖尿病のお薬は、実はとても種類が多く、そして一人ひとりに合わせて選ぶことができるという特徴があります。

「みんな同じ薬を飲むわけではない」と聞くと、少し不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。 しかし、これは糖尿病治療にとって、むしろ喜ばしいことなのです。

この記事では、2型糖尿病の薬物療法について、日本糖尿病学会の治療アルゴリズムや、ADA(米国糖尿病学会)Standards of Care in Diabetes 2026を参考にしながら、糖尿病専門医の立場からできるだけわかりやすく解説します。

なぜ日本の糖尿病治療は「第一選択薬」を決めていないのか

欧米の糖尿病治療では、長年「まずメトホルミンから」という第一選択薬の考え方が広く使われてきました。

一方、日本糖尿病学会は、あえて第一選択薬を一つに決めず、患者さんの体質や状態に応じて、すべての種類の薬から選べるという治療戦略をとっています。

これには、きちんとした理由があります。

日本人と欧米人では、糖尿病になる「体質」が違う

欧米の方は、もともとインスリンの分泌能力が高い方が多く、食べ過ぎや運動不足で体重が増えても、しばらくはインスリンでカバーできます。肥満が進んで、インスリンでカバーしきれなくなったときに、初めて糖尿病を発症する、という流れが典型的です。

一方、日本人をはじめとするアジア人は、もともとインスリンの分泌がやや控えめな体質の方が多いことが知られています。そのため、それほど体重が増えていない、いわゆる標準体重の方でも、血糖値が上がりやすいという特徴があります。

つまり、同じ「2型糖尿病」という診断名でも、体の中で起きていることが、欧米の方と日本人とでは異なるのです。だからこそ、薬の選び方も一律にはできません。

日本発の研究が、治療の土台になっています

この体質の違いを踏まえて、日本人を対象にした研究が、実際に薬物療法の指針作りに役立っています。

代表的なのが「熊本スタディ」です。診断されて間もない2型糖尿病の方を対象に、しっかりと血糖管理を行うことで、糖尿病の初期の合併症(目や腎臓の合併症:糖尿病網膜症や糖尿病腎症・糖尿病関連腎臓病)の進行を抑えられることが示されました。

さらに「J-DOIT3」という研究では、血糖だけでなく、血圧やコレステロールも含めて多面的に、かつしっかりと管理することで、心筋梗塞や脳卒中、腎症、網膜症といった合併症を抑えられることが証明されています。この研究では、体格(肥満かどうか)に応じて適した薬を選ぶことの大切さも、あわせて示されました。

薬を選ぶとき、専門医は何を考えているのか

糖尿病の薬選びは、行き当たりばったりに行っているわけではありません。日本糖尿病学会の治療アルゴリズムでは、大まかに次のような順番で考えます。

① インスリンが必要かどうかを確認する

まず何より優先されるのは、安全な血糖管理です。血糖値が非常に高い場合など、インスリン治療が必要な状態かどうかを、最初に確認します。

② 体型に応じて、合う薬のタイプを絞り込む

インスリン治療が必要でない方については、肥満があるかどうかで、体の中で起きていることの主体(インスリンの分泌が弱いタイプか、インスリンの効きが悪いタイプか)を判断し、そこから合いやすい薬を選んでいきます。

日本人に多い、肥満のないタイプの方では、食後の血糖の上がり方に着目したお薬が候補になりやすく、肥満のあるタイプの方では、体重にも良い影響が期待できるお薬の優先順位が上がる、という考え方です。

③ 安全性を確認する

低血糖の起こりやすさ、体重への影響、腎臓や肝臓、心臓への負担がないかなど、安全面をひとつずつ確認しながら、さらに薬を絞り込んでいきます。

④ 心臓・腎臓の持病がある方には、追加のメリットがある薬を考慮する

慢性腎臓病、心不全、心血管疾患をお持ちの方には、それらの臓器を守る効果が確認されている薬を優先的に考慮します。

ただし、これらのエビデンスの多くは欧米の研究に基づくものです。日本人は欧米人に比べて心筋梗塞などの動脈硬化性の病気が少ないことも分かってきており、「欧米と全く同じように考えてよいか」については、今後も日本人でのデータの蓄積が必要とされています。

⑤ 続けやすさ・費用も大切にする

服薬のしやすさ(1日に何回飲む必要があるか、週1回でよいかなど)や、お薬の費用も、治療を続けていただく上でとても大切な要素です。当院でも、効果や安全性だけでなく、無理なく続けられるかどうかを一緒に考えながら治療方針を決めています。

血糖だけでなく、体重・脂肪肝にも良い薬が増えています

糖尿病治療は今、血糖値を下げることだけを目指す時代から、体全体の健康を守る時代へと進化しています。

効果の「持続しやすさ」も大事な視点に

2型糖尿病は、診断された時点で、すでにインスリンを作る力(膵臓のベータ細胞の機能)が健康な方の半分程度まで落ちていることが分かっています。そして、そのあとも少しずつ機能が落ちていく病気です。

そのため、単に「今、血糖値が下がるか」だけでなく、「その効果がどれだけ長く続くか(durability)」も、薬選びの大切な視点になってきています。研究の積み重ねから、一部の薬は、この効果の持続しやすさに優れることが分かってきています。

糖尿病と脂肪肝の関係

近年、糖尿病診療で注目されているのが、脂肪肝(最近では「MASLD」と呼ばれます)との関係です。

食べ過ぎや運動不足が続くと、肝臓に脂肪が溜まりやすくなり、これが糖尿病と非常に似た仕組み(インスリンの効きにくさ)で発症・進行することが分かっています。日本には、単純な脂肪肝の方が1000万人以上、そこから炎症が進んだ脂肪肝炎の方も相当数いると推定されており、糖尿病をお持ちの方のおよそ10人に1人が、この脂肪肝に関連した状態にあるとも言われています。

糖尿病があって脂肪肝もある方は、そうでない方に比べて肝硬変や肝がんのリスクが2倍以上高いという報告もあり、注意が必要な組み合わせです。

嬉しいことに、糖尿病治療薬の中には、この脂肪肝にも良い影響が期待できるものがあることが分かってきました。体重減少や運動療法が基本ではありますが、お薬による後押しも選択肢として広がっています。

新しいお薬の登場と、慎重な見極め

近年登場した新しいタイプのお薬(GIP/GLP-1受容体作動薬など)は、血糖改善だけでなく、体重減少効果も非常に強力であることが、日本人を対象にした研究でも示されています。

一方で、体重が減りすぎてしまう例も一定数報告されており、特にご高齢の方や、もともと痩せ型の方では、慎重な見極めが必要とされています。良い効果と注意点の両方をきちんと理解した上で、お一人お一人に本当に合っているかを判断することが大切です。

糖尿病治療はどんどん進化しています

日本糖尿病学会の治療アルゴリズムは、2022年に初版が発表されたあと、2023年に改訂第2版が出ており、今後も改訂が予定されています。

これは、糖尿病治療が「一度決めたら終わり」ではなく、新しい研究結果や、日本人ならではのデータをもとに、より良い治療を目指して常にアップデートされ続けているということを意味します。

患者さんにとっては、「今日の治療が、将来もっと良い治療に更新されていく可能性がある」という、前向きな話でもあります。

澤木内科・糖尿病クリニックで大切にしていること

当院では、糖尿病のお薬を選ぶ際、血糖値を下げる効果だけでなく、

  • 体型や病態(インスリンの分泌・効きのタイプ)
  • 年齢や持病(腎臓、心臓、肝臓の状態など)
  • 続けやすさ、費用
  • 体重や脂肪肝への影響

など、お一人お一人の背景を含めて、一緒に治療方針を考えることを大切にしています。

「隣の人と薬が違う」のは、決して適当に決めているからではなく、その方に合った治療を考えた結果なのです。

まとめ

  • 日本の糖尿病治療は、欧米とは異なり、体質に応じて柔軟に薬を選ぶ考え方をとっています
  • これは、日本人と欧米人の糖尿病の体質の違いや、日本発の研究成果に基づいています
  • 薬選びは、インスリンの必要性、体型、安全性、持病、続けやすさなど、段階を踏んで丁寧に考えられています
  • 近年は、血糖だけでなく体重や脂肪肝にも良い影響が期待できる薬が増えています
  • 治療の考え方は、新しい研究をもとに、今後も進化し続けます

糖尿病の治療は、日々進歩しています。今の治療に疑問や不安がある方、他の方との違いが気になる方は、遠慮なくご相談ください。

よくある質問

なぜ人によって糖尿病の薬が違うのですか?

体型や病態(インスリンの分泌が弱いタイプか、効きが悪いタイプか)、年齢、持病、費用や続けやすさなど、お一人お一人の状況に合わせて薬を選んでいるためです。

新しいお薬の方が、必ず良いのですか?

新しいお薬には強力な効果が期待できるものもありますが、年齢や体型によっては注意が必要な場合もあります。ご自身に合っているかどうかは、医師と相談しながら判断することが大切です。

糖尿病と脂肪肝は関係がありますか?

はい、関係があります。糖尿病と脂肪肝は似た仕組みで進行することがあり、糖尿病のある方は脂肪肝にも注意が必要です。一部の糖尿病治療薬には、脂肪肝にも良い影響が期待できるものがあります。

薬を長く飲んでいると、効果が薄れることはありますか?

薬によって、効果の持続しやすさ(durability)には違いがあることが分かっています。この点も考慮しながら、薬を選んでいます。

費用が心配なのですが、相談できますか?

もちろんです。当院では、効果や安全性だけでなく、費用や続けやすさも含めて、一緒に治療方針を考えています。

参考文献

  • American Diabetes Association Professional Practice Committee. Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl.1).
  • 日本糖尿病学会. 2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(改訂第2版). 糖尿病 2023.
  • 熊本スタディ(Kumamoto Study)
  • J-DOIT3
  • ADOPT試験
  • GRADE Study
  • CARDIORENAL2試験
  • SURPASS-J-Mono試験、SURPASS-J-COMBO試験