2型糖尿病合併肥満症の最新の治療について

2型糖尿病について

はじめに:院長からひとこと

みなさん、こんにちは。澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木です。

外来でお話をしていると、「先生、私って単なる肥満ですか? それともメタボですか?」と質問をいただくことがよくあります。また、「ダイエットしてもすぐリバウンドしてしまう。やっぱり意志が弱いんでしょうか……」と、暗い表情でおっしゃる方も少なくありません。

今日は、そんな疑問とお悩みに、最新の医学的エビデンスを交えながら、できるだけわかりやすくお答えしたいと思います。

少し長くなりますが、ぜひ最後までお付き合いください。


1. まず知っておいてほしい「肥満をめぐる世界の現状」

世界では現在、約25億人が「過体重または肥満(BMI 25以上)」の状態にあるとされています。日本でも、BMI 25以上の方は約3,000万人と推計されており、もはや「肥満」は特別な一部の人の話ではありません。

ただ、医学の世界では「体格指数(BMI)が高い」こと自体よりも、「それが健康にどんな影響を与えているか」 を非常に重視します。

つまり、「太っている=病気」ではなく、「その脂肪が身体に害をもたらしているかどうか」が大切なのです。


2. 「メタボ」と「肥満症」——実は別物です

よく混同されるのですが、「メタボリックシンドローム(メタボ)」と「肥満症」は、定義も目的も異なります。 下の表で整理してみましょう。

比較項目 メタボリックシンドローム 肥満症
定義の核 内臓脂肪の蓄積+代謝異常(血圧・血糖・脂質) 肥満による健康障害がある、または内臓脂肪が過剰蓄積している状態
日本の診断基準 腹囲(男性85cm・女性90cm以上)+血圧・血糖・脂質の異常 BMI 25以上+関連する健康障害、または内臓脂肪の過剰蓄積
治療のゴール 将来の心筋梗塞・脳卒中などの予防 すでに起きている関節痛・睡眠時無呼吸・糖尿病などの改善

簡単にいえば、メタボは「将来の病気を防ぐための概念」、肥満症は「今まさに健康障害が起きている状態」 と理解してもらうとわかりやすいと思います。


3. 日本人が太りにくいのに糖尿病になりやすい理由

「私はそんなに太っていないのに、なぜ糖尿病と言われたんでしょう?」——これも外来でよく聞かれる質問です。

実はこれ、日本人(東アジア人)の体質に深く関係しています。

国際共同研究「INSPIRE」の結果によれば、東アジア人は世界の中で最も「内臓脂肪の蓄積比率が高い」民族 のひとつであることがわかっています。

なぜそうなるかというと、私たちアジア人は「皮下脂肪として脂肪を安全にため込む能力」が、欧米人に比べて低いのです。本来であれば皮下脂肪として収まるはずの脂肪が、おなかの中(内臓)や肝臓にあふれ出してしまう
——この現象を「スピルオーバー」と呼びます。

その結果、BMIがそれほど高くなくても、内臓脂肪が増えて代謝異常が起きやすい。これは体質であって、あなたのせいではありません。 まずそのことを知っていただきたいのです。


4. 「肥満は自己責任」ではない——社会と環境の問題

「太るのは食べすぎと運動不足のせい」という見方は、もはや医学的には古い考え方です。

現代の医学では、肥満の背景にある「社会的決定要因(SDOH)」——つまり、住んでいる環境や経済状況、食環境のあり方——が非常に重要だと考えられています。

特に近年、研究者が注目しているのが「超加工食品(ウルトラプロセスドフード:UPF)」の問題です。

コンビニやスーパーに並ぶ多くの加工食品には、脳の「報酬回路」を刺激する成分が含まれており、食べれば食べるほど「もっと食べたい」と感じるように、私たちの脳が変化していくことが実験で示されています。

さらに、アイスクリームやドレッシングに使われる「乳化剤(CMCやP80など)」は、カロリーはゼロでも腸内環境を乱し、炎症や肥満を促進することが動物実験で示されています。

「安いから」「手軽だから」と選ばざるを得ない食環境そのものが、肥満の大きな原因のひとつなのです。

これは個人の努力でどうにかなる問題ではなく、社会全体で取り組むべき課題です。


5. ADA(アメリカ糖尿病学会)2026年版が示す新しい治療の方向性

2026年版のADA(アメリカ糖尿病学会)の診療指針が発表され、いくつか注目すべき変化がありました。当院の診療にも関わる部分をご紹介します。

① 食料不安などの生活背景を必ず確認する 経済的な事情や食料へのアクセスなど、生活環境の問題を診察時にしっかりスクリーニングすることが推奨されています。「先生に言いにくい」と思うことでも、ぜひ遠慮なく話してください。

② 診断直後からCGM(持続血糖測定器)を活用する インスリン治療を始める方や低血糖リスクのある方には、糖尿病と診断された直後からCGMを使うことが強く推奨されています。当院でもこの方針に沿って、積極的にCGMを導入しています。

③ 血圧の目標がより厳しくなった
心臓・腎臓のリスクが高い患者さんに対しては、収縮期血圧(上の血圧)を 120/80 mmHg未満 にすることが推奨されています。
※米国も日本も、基本はどちらも 130/80未満。米国は高リスク例でさらに収縮期120未満を意識し始めています。

④ 代謝手術(減量手術)も標準的な選択肢として明記
一定のBMI基準を満たす場合、手術による治療も「正式な選択肢のひとつ」として位置づけられました。これは最後の手段ではなく、適切なタイミングでの有効な治療です。


6. 肥満症の最新治療——「脳・腸・脂肪」に働きかける薬

現在、肥満症と糖尿病の治療において中心的な役割を担っているのが「インクレチン関連薬」です。

これらは単に「血糖を下げる薬」ではなく、全身の代謝ネットワークそのものを整える薬剤です。

  • GLP-1受容体作動薬:迷走神経を通じて脳に「もう満腹です」というシグナルを届け、食欲を根本からコントロールします。
  • GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチドなど):脳への作用に加えて、脂肪組織に直接働きかけてエネルギー代謝を改善する「デュアル作用」が期待されています。

また、肥満は「慢性的な炎症状態」でもあります。脂肪組織と免疫細胞が引き起こす全身の炎症をリセットすることが、関節痛の改善・睡眠時無呼吸の解消・心臓病リスクの低下など、生活の質(QOL)全体の向上につながっていくのです。


7. リバウンドは「意志が弱いから」ではありません

減量後に体重が戻ってしまう「リバウンド」について、「自分の意志が足りないから……」と自分を責める方がとても多いのですが、これは生物学的な現象です。

体は一度「太った状態」を経験すると、その記憶を骨髄由来の細胞(免疫細胞など)が「ストレスの記憶」として保持し、強力に元の体重へ戻そうとすることが、最新の研究で示されつつあります(エピジェネティクスの観点)。

これを「代謝適応」といいます。つまり、リバウンドは意志の問題ではなく、体が「正常に」反応している結果なのです。

だからこそ、短期間のダイエットで勝負しようとせず、専門家チームと長期的に伴走していく治療が必要なのです。


最後に:一人で悩まないでください

肥満は、怠慢でも意志の弱さでもありません。
複雑な生物学的・社会的要因が絡み合った「慢性疾患」です。

当院では、医師・管理栄養士・看護師・医療コンシェルジュが連携して、皆さんお一人おひとりの生活背景や価値観に寄り添いながら治療を進めています。

「こんなことを相談してもいいのかな……」と思うような小さな疑問でも、どうぞ遠慮なく外来でお声がけください。

科学は日々進化しています。一人で抱え込まず、私たちと一緒に歩んでいきましょう。

澤木内科・糖尿病クリニック 院長 澤木秀明