こんにちは。澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木です。
「いつか赤ちゃんが欲しいな」と思いながらも、糖尿病があることで、妊娠について考えるのをつい後回しにしていませんか。
このような不安を抱えておられる方は、実際に少なくありません。
今回は、2026年の米国糖尿病学会(ADA)のガイドラインなどをもとに、妊娠前から準備しておきたい大切なポイントをわかりやすくお伝えします。
糖尿病があっても、正しい準備をすることで、安心して妊娠・出産を目指すことは十分可能です。
なぜ「妊娠前」の準備が大切なのか
プレコンセプションケアとは
糖尿病をもつ女性にとって大切なのは、妊娠が分かってから血糖値を整え始めるのではなく、妊娠前から準備することです。
赤ちゃんの心臓や神経などの大切な器官は、妊娠初期の早い段階で形成されます。そのため、この時期に高血糖が続くと、先天異常のリスクが高まることが知られています。
また、妊娠や急速な血糖改善により、糖尿病網膜症が悪化することもあります。
このようなリスクを減らすために重要なのが、プレコンセプションケア(妊娠前からの準備)です。
目標にしたいHbA1c
| タイミング | HbA1cの目標 |
|---|---|
| 妊娠前 | 6.5%未満 |
| 妊娠中 | 6.0%未満が理想(低血糖を起こさないことが前提) |
「厳しい」と感じられるかもしれませんが、現在は血糖管理を助けるテクノロジーがあります。
CGM(持続血糖測定器)を使うことで、血糖の変動をリアルタイムで把握しやすくなります。
また、インスリンポンプのミニメド780gのAID(自動インスリン注入システム)は有用な選択肢ですが、妊娠中は一律に推奨されているわけではなく、適切な症例で慎重に活用される治療です。
さらに一歩進んだ血糖管理
- 1型糖尿病の方へ(インスリン治療中の方へ)
1型糖尿病で、頻回インスリン注射療法(MDI)やインスリンポンプ治療を行っている方では、妊娠中は通常よりもさらに厳密な血糖管理が求められます。
妊娠中のCGM管理では、63~140 mg/dLの範囲を意識し、この範囲内の時間(TIR)を70%以上に保つことが一つの目安とされています。また、低血糖(特に54 mg/dL未満)をできるだけ避けることも重要です。
近年、このような厳しい目標を達成するために、インスリンポンプのミニメド780GのAID(自動インスリン注入システム)を妊娠中に活用するケースが実臨床で増えてきています。
海外に目を向けると、ミニメド780Gはヨーロッパで妊娠中の使用が正式に認可されています。
さらに最新の国際的な専門家のコンセンサス(合意)でも、臨床試験で有益性が確認されているAIDシステムは、妊娠を計画している段階や妊娠中を通して使用することが強く推奨されています。(海外)このように海外では前向きな活用が進み、血糖管理改善の報告も増えています。
参照(英語版)Lancet Diabetes Endocrinol. 2026 Feb;14(2):157-177.
一方で、日本では添付文書上、妊娠中の安全性が十分に確立されているとは言えず、一律の標準治療ではありません。そのため、妊娠中のAIDは、専門的な糖尿病チームのもとで個別に判断して使用することが重要です。
当院では、これらのテクノロジーに加え、
などを組み合わせ、血糖変動をできるだけ小さくする工夫を行っています。
医療現場では「フェイクカーボ」と呼ばれる調整法が話題になることもあります。
これは、現在のAIDシステムの自動調整だけでは妊娠中(特にインスリンが効きにくくなる時期)の食後高血糖に十分対応しきれない場合に、実際の食事とは別に「偽の炭水化物量」をシステムに入力して、意図的にインスリンの追加投与(ボーラス)を引き出す補助的なテクニックです。
しかし、これは標準的な方法ではなく、予期せぬ低血糖などのリスクも伴うため、必ず医療者と相談のうえで行うべき調整です。
機器の使い分け
- Dexcom G7(デクスコムG7):リアルタイム性・アラートを活かし、MDIでも管理を強化したい方に適しています
- FreeStyle Libre 2(フリースタイルリブレ2):装着負担が少なく、血糖変動の把握から始めたい方に向いています
- MiniMed 780G(特にAID):ポンプ療法に慣れており、より緻密な管理を目指す方に有用ですが、妊娠中は個別判断が必要です
当院では、患者さんの生活や治療状況に合わせて最適な方法を選択しています。
お薬の見直し
妊娠を考えるうえで最も重要なのが、糖尿病薬の調整です。
妊娠中の血糖管理は、基本的にインスリン治療が中心となります。
GLP-1受容体作動薬
- セマグルチド:妊娠の2か月前までに中止が推奨
- チルゼパチド:妊娠希望時は事前に主治医へ相談
その他の薬
- ACE阻害薬・ARB:妊娠前に変更が必要
- スタチン:原則中止(例外は個別判断)
葉酸とサプリメント
妊娠前から400~800μgの葉酸を摂取することが推奨されています。
チラーヂンS(レボチロキシンナトリウム)を服用中の方へ
鉄を含むサプリメントは、チラーヂンS(レボチロキシンナトリウム)の吸収を妨げるため、
👉 4時間以上間隔をあけて服用
が必要です。
👉
市販の葉酸サプリの多くは、葉酸だけでなく鉄も一緒に含まれていることが多いです。そのため、チラーヂンSを飲んでいる方は、服用時間をしっかり分ける必要があります。
眼科受診も忘れずに
妊娠前または妊娠初期に、必ず眼科でチェックを受けてください。
「完璧になるまで待たない」
- 勇気を出して一歩踏み出してほしい
ここまでお読みいただき、「準備が大切なのは分かったけれど、やることが多くて大変そう」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、血糖値やお薬、合併症の状態を整えることはとても大切です。
一方で、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
それは、妊娠しやすさは年齢とともに少しずつ変化していくということです。
これは糖尿病のあるなしに関わらず、すべての女性に共通する大切な事実です。
だからこそ、院長としてお伝えしたいのは、
👉 「もう少し落ち着いてから」ではなく、今このタイミングで一度相談してほしい
👉 高齢になる前に、勇気を出して一歩踏み出してほしい
ということです。
「血糖値がまだ理想的ではないから」
「もう少し整ってから」
そう思っている間にも、時間は静かに過ぎていきます。
もちろん、無理に妊娠を急ぐ必要はありません。
ただ、何も動かずに時間だけが過ぎてしまうことは避けたいのです。
妊娠は、「完璧に準備してから始めるもの」ではなく、
準備を進めながら前に進んでいくものです。
まずは、
「将来、妊娠を考えています」
この一言を、診察のときに伝えてください。
そこから、あなたにとって最適な準備を、一緒に考えていきましょう
あなたは一人ではありません
糖尿病があっても、妊娠・出産は十分に可能です。
澤木内科・糖尿病クリニックでは、
女性医師を含む複数の糖尿病専門医・看護師・管理栄養士・医療コンシェルジュがチームとなり、
妊娠前からしっかりサポートいたします。
妊娠後は分娩予定施設の産科のご指示のタイミングで引き継いでいます。
一旦、受診予定の施設に受診をしていただき、ぎりぎりまで、当院で糖尿病治療する場合もあれば、分娩予定の産科に移った時期にあわせて、糖尿病治療も糖尿病合併妊娠に習熟された施設に引き継ぐこともあります。
ご不安なことがあれば、いつでもご相談ください。
澤木内科・糖尿病クリニック
院長 澤木秀明


