糖尿病の患者さんから、次のようなご質問をいただくことがあります。
「健康診断で尿たんぱくが出ました。腎臓が悪いのでしょうか?」
「尿たんぱくが陰性なら、糖尿病性腎症は心配ありませんか?」
「eGFRが低いと言われましたが、透析になるのでしょうか?」
「尿アルブミンとは、普通の尿たんぱくと何が違うのですか?」
糖尿病による腎臓の合併症は、初期にはほとんど自覚症状がありません。
痛みもなく、尿の見た目にも変化がなく、
体調も普段と変わらないまま腎症が進むことがあります。
そのため、糖尿病の腎臓病を早く見つけるには、
・尿たんぱく
・尿アルブミン
・血液検査のeGFR
を確認することが大切です。
しかも、どれか一つだけを見ればよいわけではありません。
尿アルブミンが増えていなくても、eGFRが低下している方がいます。反対に、eGFRが保たれていても、尿アルブミンが増え始めている方もいます。
この記事では、糖尿病専門医の立場から、尿たんぱく・尿アルブミン・eGFRで何がわかるのか、どのような場合に注意が必要なのかを、できるだけわかりやすくお伝えします。
糖尿病で腎臓が悪くなるのはなぜですか?
腎臓には、血液をろ過して、体に必要なものを残し、不要なものを尿として排出する働きがあります。
腎臓の中には、糸球体という細い血管の集まりがあります。
血糖値が高い状態が長く続くと、この細い血管に負担がかかります。
さらに、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙、加齢などが重なると、
腎臓の障害が進みやすくなります。
典型的な糖尿病性腎症では、まず尿の中に少量のアルブミンが漏れ始め、
その後、尿たんぱくが増え、少しずつ腎臓のろ過能力が低下していきます。
しかし、すべての患者さんが、この順番で進むとは限りません。
近年では、尿アルブミンがあまり増えていないにもかかわらず、
eGFRが低下している糖尿病患者さんも少なくないことがわかっています。
そのため現在は、従来の「糖尿病性腎症」だけでなく、
加齢、高血圧、動脈硬化、肥満、心不全、薬剤など、
さまざまな要因による腎障害を含めて、
「糖尿病関連腎臓病」(DKD)と広く捉える考え方も重視されています。
つまり、
「尿たんぱくが陰性だから、腎臓は大丈夫」
とは言い切れないのです。
尿たんぱく・尿アルブミン・eGFRの違い
この3つは、それぞれ見ているものが異なります。
尿たんぱく(尿蛋白)
尿の中に、たんぱく質が漏れていないかを確認する検査です。
健康診断などで行われる尿試験紙検査は簡便で、とても重要な検査です。
ただし、早い段階の糖尿病性腎症では、通常の尿たんぱく検査が陰性でも、少量のアルブミンが漏れ始めていることがあります。
また、発熱、激しい運動、脱水、尿路感染症などによって、
一時的に尿たんぱくが陽性になることもあります。
一度の結果だけで判断せず、必要に応じて再検査や定量検査を行います。
尿アルブミン
アルブミンは、血液中にある代表的なたんぱく質です。
腎臓の糸球体に初期の障害が起こると、通常の尿たんぱく検査では捉えにくい少量のアルブミンが、尿に漏れ始めることがあります。
尿アルブミンは、一般的に尿中アルブミン・クレアチニン比、UACRという値で評価します。
目安としては、
・30mg/gCr未満:正常アルブミン尿
・30~299mg/gCr:微量アルブミン尿
・300mg/gCr以上:顕性アルブミン尿
と分類されます。
尿アルブミンが多いほど、将来の腎機能低下だけでなく、心筋梗塞、脳卒中、心不全などのリスクも高くなる傾向があります。
ただし、尿アルブミンも、運動、発熱、感染症、著しい高血糖、
高血圧、月経などの影響で一時的に増えることがあります。
そのため、異常が出た時は、条件を整えて複数回確認することがあります。
eGFR(イージーエフアール:推定腎糸球体ろ過量)
eGFRは、腎臓が1分間にどのくらい血液をろ過できるかを推定した数値です。
主に血清クレアチニン、年齢、性別などから計算します。
一般的に、eGFRが60mL/分/1.73㎡未満の状態が3か月以上続く場合は、慢性腎臓病、CKDに該当する可能性があります。
ただし、eGFRはあくまで推算値です。
筋肉量が少ない高齢者、急激に体重が減った方、筋肉量が非常に多い方などでは、実際の腎機能とずれることがあります。その場合は、必要に応じてシスタチンCなど、別の検査を参考にすることもあります。
大切なのは「今のeGFR」だけではなく、変化の速さです
eGFRが60だから悪い、80だから安心、と一回の数値だけで判断するのは十分ではありません。
大切なのは、過去からどのように変化しているかです。
たとえば、
・3年前はeGFRが85
・2年前は78
・昨年は69
・今年は58
という場合、現在の値だけでなく、比較的速い速度で低下していることが問題になります。
このような経年変化を、eGFRスロープ、つまりeGFRの傾きと呼びます。
腎機能は年齢とともに少しずつ低下することがありますが、1年間にeGFRが5以上低下するような場合は、急速に進行している可能性があります。
私たちは診療の際、現在のeGFRだけでなく、できるだけ過去の検査結果までさかのぼって確認することが大切だと考えています。
健康診断や以前の医療機関での検査結果をお持ちの方は、受診時に持参していただくと、腎機能の変化を判断するうえで役立ちます。
尿アルブミンが正常でも、腎臓病はあります
以前は、糖尿病性腎症は、
尿アルブミンが増える
↓
尿たんぱくが増える
↓
eGFRが低下する
という順番で進むと考えられていました。
この経過をたどる方は今も多くいらっしゃいます。
一方で、最近では、尿アルブミンが正常または少量であっても、eGFRが低下する糖尿病患者さんがいることが知られています。
背景には、
・加齢
・高血圧や動脈硬化
・心不全
・肥満やメタボリックシンドローム
・脱水
・薬剤の影響
・糖尿病とは別の腎臓病
などが関係する場合があります。
そのため、糖尿病の腎臓病を確認するには、
尿アルブミンとeGFRの両方を見ること
が重要です。
尿たんぱくが陰性でも、eGFRが低下している方は、安心して放置せず、経過を確認してください。
腎臓病は、かなり進むまで症状が出ないことがあります
糖尿病による腎臓病の初期には、ほとんど自覚症状がありません。
腎機能の低下が進むと、
・足や顔がむくむ
・体重が急に増える
・疲れやすい
・息切れがする
・食欲が落ちる
・吐き気がする
・夜間の尿が増える
・血圧が高くなる
・貧血を指摘される
といった症状が出ることがあります。
しかし、こうした症状が現れる頃には、腎障害がかなり進んでいることがあります。
また、尿が泡立つことを心配される方もいます。
尿たんぱくが多いと泡立ちが目立つことはありますが、尿の勢い、水分不足、便器に残った洗剤などでも泡立つことがあります。
尿の見た目だけでは判断できません。
症状や見た目ではなく、尿検査と血液検査で確認することが大切です。
糖尿病の方は、いつ腎臓の検査を受けるべきですか?
2型糖尿病では、糖尿病と診断された時点ですでに腎障害が始まっていることがあります。
そのため、診断時から尿アルブミンとeGFRを確認することが大切です。
1型糖尿病では、一般的に発症後一定期間が経過してから定期的な検査を開始しますが、血糖状態、年齢、血圧、妊娠などによって個別に判断します。
その後は、少なくとも年1回程度を基本に、尿アルブミンとeGFRを確認します。
すでに尿アルブミンが増えている方、eGFRが低下している方、低下速度が速い方では、状態に応じて、より短い間隔で検査することがあります。
腎臓を守るために大切なこと
糖尿病の腎臓病は、一度進行したら何もできない病気ではありません。
現在は、早く見つけて適切に治療することで、腎機能低下を遅らせられる可能性が高くなっています。
血糖値を整える
高血糖を改善することは、糖尿病性腎症の発症や進行を防ぐ基本です。
ただし、腎機能が低下すると、薬が体内に残りやすくなり、低血糖を起こしやすくなることがあります。
HbA1cを下げることだけを目的にするのではなく、年齢、腎機能、低血糖リスク、生活状況を考えて治療目標を決めます。
血圧を整える
高血圧は腎臓の細い血管に負担をかけます。
特に尿アルブミンが増えている方では、血圧管理が非常に重要です。
ACE阻害薬やARBと呼ばれる降圧薬が選択されることがありますが、腎機能やカリウムを確認しながら使う必要があります。
薬を増減したり中止したりする場合は、自己判断ではなく、主治医と相談してください。
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は、尿に糖を排出することで血糖値を下げる薬として開発されました。
その後の研究で、条件を満たす患者さんでは、血糖を下げる作用だけでなく、腎機能低下や心不全のリスクを減らす効果が示されています。
開始後、一時的にeGFRが少し低下することがありますが、その後の長期的な腎機能低下を抑えるための変化である場合があります。
ただし、脱水、尿路・性器感染症、体調不良時のケトアシドーシスなどに注意が必要です。
すべての方に適するわけではないため、年齢、体格、腎機能、食事量、感染症リスクなどを確認して判断します。
フィネレノン
フィネレノンは、2型糖尿病に伴う慢性腎臓病の一部の患者さんで、腎機能低下や心血管イベントを抑えることが期待される薬です。
特に尿アルブミンが増えている方で検討されます。
一方で、血液中のカリウムが高くなることがあるため、開始前後の血液検査が必要です。
GLP-1受容体作動薬
GLP-1受容体作動薬の一部には、血糖や体重を改善するだけでなく、心血管疾患や腎臓病のリスクを減らすことが示されているものがあります。
食欲低下、吐き気、体重減少などが起こることもあるため、特に高齢者や筋肉量の少ない方では、栄養状態にも注意しながら使います。
塩分、体重、喫煙も大切です
腎臓を守るには、薬だけではなく、
・塩分を取りすぎない
・適正な体重を目指す
・禁煙する
・運動を無理のない範囲で続ける
・血圧や脂質を整える
・脱水を避ける
といった取り組みも大切です。
ただし、腎機能が低下している方が、自己判断で極端なたんぱく質制限やカリウム制限を行うのはおすすめできません。
腎機能、尿たんぱく、年齢、栄養状態によって、必要な食事内容は異なります。
糖尿病以外の腎臓病を見逃さないことも重要です
糖尿病の方に腎障害が見つかったからといって、すべてが糖尿病性腎症とは限りません。
たとえば、
・尿潜血が続いている
・急に大量の尿たんぱくが出た
・eGFRが短期間で急低下した
・血糖管理の期間に比べて腎障害が強い
・発熱や関節痛など、ほかの症状がある
・尿路結石や前立腺、尿路閉塞が疑われる
・薬剤による腎障害が考えられる
といった場合には、糖尿病とは別の腎臓病が隠れていないかを考えます。
必要に応じて腎臓内科へ紹介し、詳しい検査や腎生検が検討されることもあります。
早めに相談してほしい検査結果
次のような方は、放置せず医療機関で相談してください。
・健康診断で尿たんぱくを指摘された
・尿アルブミンが30mg/gCr以上だった
・eGFRが60未満と言われた
・以前よりeGFRが大きく低下している
・尿たんぱくと尿潜血の両方が陽性だった
・血圧が高い状態が続いている
・足や顔のむくみがある
・糖尿病があるが、尿アルブミンを調べたことがない
・腎臓が悪いと言われたが、治療内容が変わっていない
・腎臓を守る薬について相談したい
eGFRが低いからといって、すぐに透析になるわけではありません。
大切なのは、現在の値、尿アルブミンの程度、低下速度、年齢、血圧、心臓病などを総合的に確認することです。
澤木内科・糖尿病クリニックで大切にしていること
澤木内科・糖尿病クリニックでは、HbA1cだけを見て糖尿病治療を終えるのではなく、将来の合併症を防ぐことを大切にしています。
腎臓については、
・尿たんぱく
・尿アルブミン
・血清クレアチニン
・eGFR
・過去からのeGFRの変化
・血圧
・血糖値とHbA1c
・脂質
・現在使用している薬
・心臓病や血管病のリスク
を確認しながら、患者さん一人ひとりに合った治療を考えます。
必要に応じて、SGLT2阻害薬、ACE阻害薬・ARB、フィネレノン、GLP-1受容体作動薬などを検討しますが、薬の名前だけで決めることはありません。
腎機能、尿アルブミン、血圧、年齢、体格、感染症や脱水のリスク、患者さんの生活状況まで確認して選択します。
また、糖尿病以外の腎臓病が疑われる場合や、腎機能低下が進んでいる場合には、腎臓内科と連携して診療します。
まとめ|腎臓を守るには「尿」と「血液」の両方を確認しましょう
糖尿病の腎臓病は、初期にはほとんど症状がありません。
そのため、
・尿たんぱくだけでなく、尿アルブミンを確認する
・eGFRで腎臓のろ過能力を確認する
・一回の数値だけでなく、過去からの変化を見る
・尿アルブミンが正常でも、eGFR低下を見逃さない
・血糖だけでなく、血圧、脂質、体重、喫煙にも対応する
・必要に応じて腎臓を守る治療を早めに検討する
ことが大切です。
「尿たんぱくが陰性だから大丈夫」
「症状がないから大丈夫」
「年齢のせいだから仕方がない」
と自己判断しないでください。
一方で、尿アルブミンやeGFRに異常があっても、すぐに透析になるという意味ではありません。
早く気づき、原因と進行速度を確認し、適切な治療を始めることが、将来の腎臓を守ることにつながります。
健康診断で尿たんぱくや腎機能の異常を指摘された方、糖尿病があり尿アルブミンを調べたことがない方、eGFRが少しずつ低下している方は、検査結果をお持ちのうえ、医療機関へご相談ください。
澤木内科・糖尿病クリニックでは、糖尿病専門医、看護師、管理栄養士が連携し、糖尿病と腎臓を含めた合併症の予防を一緒に考えてまいります。
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糖尿病の合併症はいつから起こる?
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CGM・血糖変動の見える化について
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参考資料
日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』第9章 糖尿病性腎症
日本腎臓学会『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』
糖尿病性腎症合同委員会『糖尿病性腎症病期分類2023』
American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes—2026. Section 11: Chronic Kidney Disease and Risk Management.

