こんにちは。
澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。

「インスリンポンプに興味はあるんですが、チューブが服に引っかかりそうで…」
インスリンポンプをご提案したとき、外来でよくいただくお返事です。たしかに、従来のインスリンポンプは本体とお腹をつなぐチューブがあり、服装や寝るときの置き場所に気をつかう、という声がありました。
実は、チューブのないインスリンポンプがあります。体に直接貼り付ける「パッチ式」です。今回は、日本で使えるパッチ式インスリンポンプ「メディセーフウィズスマート」(テルモ株式会社)について、良いところも、正直に知っておいてほしいところも、まとめてお伝えします。
インスリンポンプ療法とは|「基礎」と「追加」を体の外から再現する

糖尿病のない人の体では、すい臓から24時間少しずつインスリンが分泌され(基礎分泌)、食事のたびに必要な量がまとめて分泌されます(追加分泌)。
インスリンポンプ療法(CSII)は、小型のポンプで超速効型インスリンを24時間持続的に注入し、この2つの分泌をできるだけ忠実に再現する治療法です。1時間あたりの注入量を「基礎レート」、食事や高血糖時に追加する量を「ボーラス」と呼びます。
ペン型注入器による頻回注射と比べて、次のような特徴があります。
- 基礎インスリンを時間帯ごとに細かく設定できる:明け方に血糖値が上がる「暁現象」など、注射では対応が難しい変動にも合わせられます
- 追加インスリンを0.1単位刻みで調節できる:ペン型の最小単位(0.5単位)より細かく設定できます
- 針を刺す回数が減る:頻回注射では月120回以上になる穿刺が、ポンプでは留置セットの交換時(2〜3日に1回)だけになり、月10回程度になります
パッチ式インスリンポンプとは|チューブがない、貼るタイプのポンプ

パッチ式インスリンポンプは、腹部や上腕部などに小型のポンプを直接貼り付け、皮下に留置した「カニューレ」という細くやわらかい注入管からインスリンを注入します。ポンプと体をつなぐチューブがありません。
メディセーフウィズスマートは、日本初のパッチ式インスリンポンプ「メディセーフウィズ」の操作リモコンを、スマートフォンタイプに一新したものです。構成はシンプルです。
- ポンプ本体:重さ約34gと小型・軽量。6か月ごとに交換
- カートリッジ:インスリンを充填するリザーバー(2mL・200単位)と電池を内蔵。3日以内に交換
- 留置セット(イージーパッチ):カニューレを皮下に留置するパッチ。カートリッジと同時に交換
- 専用リモコン:スマートフォンタイプ。ボーラス投与や基礎レートの調整をBluetooth通信で行います
入浴や激しい運動のときは、ポンプを一時的に取り外せます(取り外しは1時間以内が目安。外した部分には専用の保護カバーを付けます)。
パッチ式のメリット|服装の自由と、さりげない操作

パッチ式の一番の価値は、インスリン注入の性能そのものというより、「毎日の暮らしやすさ」にあると考えています。ワンピースを着たい、チューブを気にせず眠りたい、人前でさりげなく操作したい。そうした日常の希望に応えられる機器です。
メーカーの調査(2018〜2021年、テルモ調べ)では、使用者の7割以上が女性で、10〜40代の比較的若い世代が多いことが報告されています。実際に使っている方からは、次のような声が挙げられています。
- 服装を自由に選べる
- チューブの引っ掛かりや外れがなくなった
- 着けても重く感じない(約34g)
- 人目を気にせず投与・操作できる
- 睡眠時に邪魔になりにくい
また、リモコンには交換手順をアニメーションで確認できる「交換ガイド」機能があり、初めての方でも手順を覚えやすい設計になっています。食事や月経、シックデイなどを記録できるメモ機能もあります。

「詰まりやすい」は過去の課題|サイドホールによる改良
インスリンポンプ療法の課題のひとつが、カニューレの詰まりや折れ曲がりによる注入不良です。超速効型インスリンだけを使う治療のため、注入が数時間止まるだけで血中のインスリンが不足し、高血糖から糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に至るおそれがあります。
この点について、メディセーフウィズは発売以来、段階的な改良が続けられてきました。2019年に貼り付けやすさの向上と液漏れ対策、2020年にゴムポートの内腔拡大、2022年にカニューレ先端の形状変更。2024年から、カニューレの側面に「サイドホール(側孔)」を追加した新仕様へ順次変更されました。

サイドホールは、カニューレの先端が筋膜や組織で塞がれてしまった場合でも、側面の穴からインスリン注入を続けられるようにする「予備の通り道」です。テルモ社の技術資料に掲載された機能確認試験では、先端を意図的に塞いだ条件で、サイドホールのない従来品はすべての検体で注入不良アラームが鳴ったのに対し、サイドホールのある新仕様ではすべての検体で内圧の上昇が抑えられ、アラームが鳴りませんでした。
※この試験はメーカー(テルモ社)の社内試験であり、外部の査読を経た臨床研究ではありません。また、サイドホールによって詰まりのリスクがゼロになるわけではなく、後述する血糖確認の習慣は引き続き大切です。
ADAガイドラインでの位置づけと、日本の現状|正直にお伝えします
米国糖尿病学会(ADA)の治療指針「Standards of Care 2026」では、インスリン投与の方法について次のような趣旨が示されています。
- 1型糖尿病の方には、AIDシステム(CGMと連動してインスリン注入量を自動調整するシステム)が、頻回注射や単独のポンプ療法よりも優先されるインスリン投与法として推奨される(エビデンスレベルA)
- ただし、どの機器を選ぶかは、本人の状況・好み・ニーズに基づいて決めるべきである
ここで正直にお伝えしたいのは、日本で現在使えるパッチ式インスリンポンプは、CGMとは連動していない「単独型」であるという点です。海外にはチューブレスのAIDシステムも存在しますが、日本ではまだ使用できません(2026年8月時点)。

つまり日本では今、「CGM連動の自動調整」を重視するならチューブ式のAIDポンプ(ミニメド780Gなど)、「チューブレスの自由さ」を重視するならパッチ式、という選択になります。どちらが優れているという話ではなく、何を大切にしたいかで選ぶものです。診察で一緒に考えましょう。
当院も参加した安全性の研究|MW-Safety研究
メディセーフウィズについては、日本全国のインスリンポンプ治療に熱心な医療機関が参加した多施設共同研究「MW-Safety研究」が行われ、2025年6月、米国糖尿病学会(ADA)の学術集会で発表されました。実際に使用した患者さんのデータを約26週間(半年)分さかのぼって集め、この機器の安全性と有効性を評価した観察研究です。

この研究には、私も共著者の一人として参加しました。日々の外来でパッチ式ポンプを使う立場として、機器を「紹介する」だけでなく、その安全性を確かめる研究にも関わっていることは、当院の診療の土台になっています。
研究の内容は、別の記事でわかりやすく解説しています。ご興味のある方はあわせてご覧ください。
▶関連記事:メディセーフウィズ(Medisafe WITH)を使った研究について
使ううえで知っておいてほしいこと

血糖確認の習慣が、安全の土台です
ポンプ療法では、少なくとも1日4回以上の血糖自己測定(またはCGMでの確認)を行い、インスリンが確実に注入されていることをチェックすることが求められます。就寝前・起床時・気分が悪くなったとき・自動車の運転前は、特に確認が大切です。

なお、電子添文(添付文書)では、1日4回以上の血糖自己測定と定期的な受診などを行う意思がない方には使用しないこととされています。
CGMを併用している場合の確認方法については、主治医の指示に従ってください。ポンプは「着ければ終わり」の機器ではなく、確認の習慣とセットで安全に使えるものです。
CGMと組み合わせると、確認の負担を減らせます
「1日4回以上」と聞くと、指先穿刺の負担を心配される方も多いのですが、ここでCGMが役に立ちます。
リアルタイムCGM(デクスコムG7など)は、日本の添付文書上、測定結果を医師による治療決定や、医師と事前に取り決めた範囲での日常の自己管理に用いることができる機器として承認されています。テルモの患者向けガイドブックでも、ポンプ使用中の毎日の確認方法として、血糖自己測定に加えて「CGMを確認」する方法が明記されており、留置セット交換後のチェックも「血糖値の測定またはCGMチェック」でよいとされています。
当院でも、パッチ式ポンプとCGMを併用し、指先穿刺の回数を大きく減らしている方が多くいらっしゃいます。ただし、次の2点は変わりません。
どの場面をCGMで確認し、どの場面で指先の測定を行うか。ご自身の生活に合った組み合わせを、診察で一緒に決めましょう。
DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)のサインを知っておく
口の渇き・多尿、強いだるさ、吐き気・嘔吐・腹痛、深く早い呼吸などが現れたら、血糖値とケトン体を確認する必要があります。SGLT2阻害薬を服用中の方は、血糖値が高くないままケトアシドーシスになることがあるため、特に注意が必要です。
ペン型注入器は、必ず持ち歩いてください
ポンプは電子機器なので、故障や不具合の可能性をゼロにはできません。トラブルでインスリン注入が止まった場合に備え、ペン型注入器・注射針・速効性の糖質などを入れた「緊急セット」を常に携帯し、ご家族にも置き場所を伝えておいてください。注射のしかたを忘れないでおくことも大切です。
交換は2〜3日ごと、交換後の血糖チェックを忘れずに
カートリッジと留置セットは3日以内に交換します。期間を過ぎるとインスリンの吸収が悪くなり、感染のリスクも高まります。交換後は2〜3時間後に血糖値を確認し、新しい注入セットが正常に機能しているかチェックしてください。交換のタイミングは、確認がしやすい朝や昼間がおすすめで、就寝前は避けましょう。
貼る場所はローテーションを
同じ場所に繰り返し留置すると、皮膚の下にかたまりができて、インスリンの吸収が悪くなることがあります。腹部・大腿部・臀部・上腕部などを順番に使い、同じ部位の連続使用は避けてください。テープかぶれが出た場合の対処法もありますので、遠慮なくご相談ください。
▶関連ページ:インスリンのしこりが血糖値を乱す|注射部位のローテーションが大切な理由
入浴・検査・空港での取り扱い
入浴・サウナ・スポーツ
X線・CT・MRI検査は、すべて取り外しが必要です
ポンプ本体も留置セットも、X線・CT・MRIいずれの検査でも取り外す必要があります。
飛行機に乗るとき
- Bluetooth等の通信機能があるため、離着陸時はリモコンを機内モードにしてください
- 空港の保安検査では、X線検査装置とボディスキャナーにポンプ・リモコンを通さないでください(金属探知機は問題ありません)。係員に申し出て、目視確認などをお願いしましょう
- 「医療機器エアポート情報カード」(テルモのコールセンターで入手できます)を提示するとスムーズです
- 旅行の前には、あらかじめ診察でご相談ください
パッチ式インスリンポンプが向いている方
- チューブが服装や睡眠の妨げになることが気になる方
- 人前での注射や操作に心理的な負担を感じている方
- 明け方の高血糖(暁現象)など、注射では対応しにくい血糖パターンがある方
- 細かい単位でインスリンを調節したい方
- 1日4回以上の血糖(あるいはCGM)の確認と、2〜3日ごとの交換を続けられる方

澤木内科・糖尿病クリニックでの取り組み

当院では、パッチ式のメディセーフウィズに加え、AID機能をもつミニメド780G、CGM(フリースタイルリブレ2・デクスコムG7)、SMBGなど、複数の機器を用いた糖尿病治療に対応しており、現在約40名の方がインスリンポンプ療法を継続されています。
前述のとおり、メディセーフウィズの安全性を評価する多施設共同研究(MW-Safety研究)にも参加しています。
導入にあたっては、機器の操作練習から基礎レートの調整、シックデイの対応まで、医師・スタッフが段階的にサポートします。メーカー(テルモ)にも24時間365日対応のインスリンポンプ専用コールセンターがあり、夜間の機器トラブルの相談窓口として利用できます。
まとめ
- パッチ式インスリンポンプは、チューブのない「貼るタイプ」のインスリンポンプです
- 服装の自由、チューブの引っ掛かりがないこと、さりげない操作が主なメリットです
- 基礎レートの時間帯別調整や0.1単位刻みのボーラスなど、ポンプ療法共通の利点もあります
- かつての課題だったカニューレの詰まりには、2024年からのサイドホール追加などの改良が続けられています
- ADA 2026は、1型糖尿病ではAIDシステムを優先されるインスリン投与法として推奨していますが、日本のパッチ式はCGM非連動の単独型です。自動調整を重視するか、チューブレスの自由さを重視するかで選択が変わります
- 当院はメディセーフウィズの安全性を評価する多施設共同研究(MW-Safety研究)に参加しています
- 1日4回以上の血糖確認(CGMをどう活用するかは主治医と相談)、緊急セットの携帯、2〜3日ごとの交換が安全に使う前提です
- X線・CT・MRI検査ではすべて取り外しが必要です。空港ではX線検査装置・ボディスキャナーに通さないでください
パッチ式インスリンポンプにご興味のある方、今の治療からの切り替えを検討したい方は、診察でお気軽にご相談ください。
▶関連記事:リブレの次に知ってほしいCGM「デクスコムG7」とは|精度・アラート・使い方を専門医が解説
▶関連記事:CGMで血糖管理は変わる?REAL J研究の結果と、Dexcom G7・リブレ2の選び方
▶関連ページ:インスリンポンプのミニメド780Gシステムへの期待
▶関連記事:メディセーフウィズ(Medisafe WITH)を使った研究について
【参考】
メディセーフウィズ添付文書(ポンプ本体:医療機器承認番号22900BZX00374000、カートリッジ・充填器、Sリモコン、留置セット・保護カバー)/Dexcom G7 CGMシステム添付文書(医療機器承認番号:30500BZI00035000、2025年12月第3版)/テルモ株式会社「ご本人とご家族のためのパッチ式インスリンポンプ入門」(監修:川村智行先生)/テルモ株式会社 メディセーフウィズスマート製品資料・カニューレ仕様変更資料(2024年12月)/American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. Diabetes Care 2026;49(Suppl.1):S150-S165(インスリン投与デバイスの推奨)/Miura J, Murata T, Hirota Y, Toyoda M, Sawaki H, et al. A Multicenter Retrospective Observational Study of the Safety and the Effectiveness of the MEDISAFE WITH Patch Insulin Pump—MW-Safety Study. Abstract 950-P. Diabetes 2025;74(Suppl.1)(2025年6月ADA学術集会で発表)
※このページは2026年8月時点の情報にもとづく、一般的な情報提供を目的としたものです。医療機器の仕様や添付文書の記載は改訂されることがあり、記事の内容が最新でない可能性があります。治療の内容や機器の選択は患者さんお一人おひとりで異なりますので、実際の判断にあたっては、必ず最新の添付文書をご確認のうえ、主治医にご相談ください。
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