こんにちは。澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。
外来では、こんな気持ちをお話しくださる方が少なくありません。
- 「わかっているけれど、毎日続けるのに疲れてしまった」
- 「血糖値の数字を見るたびに、責められている気がする」
- 「合併症のことを考えると、不安になる」
こうした、糖尿病とともに暮らす中で生まれる気持ちの負担を、「ダイアベティス・ディストレス(糖尿病に伴う気持ちのつらさ)」といいます。2026年、欧州糖尿病学会(EASD)は、同学会として初めての、研究の根拠に基づく診療ガイドラインとして、成人のダイアベティス・ディストレスの評価と支援を取り上げました。このページでは、その内容をわかりやすくご紹介します。

「つらい」と感じるのは、あなたの努力が足りないからではありません。気持ちのことも、血糖値と同じように、診察でお話しいただいてよいことなんです。
ダイアベティス・ディストレスとは
糖尿病の治療では、薬やインスリン、血糖値の測定、食事、運動など、毎日やることがたくさんあります。糖尿病のことを考えたり、判断したりする負担は、日々の生活の中で積み重なっていきます。
こうした毎日の自己管理や、低血糖・高血糖、将来の合併症への心配、周りの人の言葉などから生まれる、不安、いらだち、罪悪感、疲れ、落ち込みなどが、ダイアベティス・ディストレスです。
ガイドラインでは、ダイアベティス・ディストレスはうつ病とは別のもので、糖尿病の大変さに対する自然な反応とされています。ただし、つらさが強いと、日々の自己管理が難しくなることがあります。うつ病を併せて経験する方もいるため、早めに相談することが大切です。
多くの方が経験しています
ダイアベティス・ディストレスは、決してめずらしいものではありません。ガイドラインで紹介されている海外の研究で、質問票で一定以上の気持ちの負担が認められた方の割合は、次のように報告されています。
- 1型糖尿病の方:研究によって、およそ2割から4割
- 2型糖尿病の方:55の研究をまとめた解析で、約36%
数字は、調べた方法や対象によって大きく異なります。また、次のような時期には、気持ちのつらさが強くなりやすいとされています。
- 糖尿病と診断されて間もないころ
- インスリンを始めるなど、治療が変わるとき
- 合併症がわかったとき
- 仕事や家庭の大きな変化、支えてくれる人がいなくなったときなど
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ガイドラインが医療者に求めていること
ガイドラインでは、医療者に向けて、次のような8つの提言が示されています(わかりやすく言い換えています)。
- 毎回の診察で、気持ちの面についても話し合う
- 「糖尿病とのつきあいで、大変なことはありますか?」のように、答えを決めつけない質問で聞く
- 信頼できる質問票を使って、気持ちのつらさを確認する
- 少なくとも年に1回、また大きな出来事や治療の変更のときに確認する
- 結果がどうであっても、本人と一緒に振り返る
- 話した内容を記録し、医療チームで共有する
- つらさが強いときは、次にどうするかを本人と一緒に考える
- 医療者は心の支えになれるよう学び、必要なときは専門家につなぐ
つまり、気持ちのことを診察で話すのは、特別なことではなく、糖尿病の治療の一部だということです。
1型糖尿病の方への推奨
1型糖尿病の方の気持ちのつらさを和らげる方法として、次のものが「条件付きで勧める」とされています。
| 方法 | 内容 | 根拠の確かさ |
|---|---|---|
| 心理的な支援 | 認知行動療法など、専門家と一緒に考え方や対処法を見直す方法 | 低い |
| CGM(持続血糖測定) | 指先での血糖測定に比べて、気持ちのつらさが少し和らいだ | 中等度 |
| AID(自動インスリン投与) | 使わない場合に比べて、気持ちのつらさが少し和らぐ傾向 | 中等度 |
CGMやAIDは、血糖値の管理だけでなく、毎日の測定や計算の負担を軽くすることで、気持ちの面でも役立つ可能性があります。ただし、アラームが多すぎて疲れてしまう方もいます。機器の設定も含めて、主治医と相談しましょう。
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2型糖尿病の方への推奨
2型糖尿病の方の気持ちのつらさを和らげる方法として、次のものが「条件付きで勧める」とされています。
- 心理的な支援(認知行動療法など)
- 心理教育(気持ちへの対処の方法と、糖尿病の知識を組み合わせたもの)
- 糖尿病の教育(食事、治療、薬などについて学ぶ教室や指導)
一方、気持ちのつらさを和らげる目的だけで、通常の診療に患者さん同士の支え合い(ピアサポート)を追加したり、指先での測定よりCGMを選んだりすることは、現時点の研究では積極的には勧められていません。研究で、はっきりした効果が確認できなかったためで、いずれも条件付きの判断です。ただし、ピアサポートが自己管理の助けになることや、CGMが血糖管理に役立つことまで否定するものではありません。
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自分の気持ちに気づくために
次のような気持ちが、最近よくありませんか? 当てはまるものがあっても、おかしなことではありません。
- 糖尿病のことを考えると、気持ちが重くなる
- 治療や自己管理を続けることに、疲れを感じる
- 血糖値や体重のことで、自分を責めてしまう
- 低血糖や合併症が心配で、落ち着かない
- 家族や周りの人に、わかってもらえないと感じる
- 医療者に、本当の気持ちを話しにくい
医療の現場では、PAID(Problem Areas in Diabetes)などの質問票を使って、気持ちのつらさの程度を確認することがあります。上の項目は、日々の気持ちを振り返るための例で、PAIDなどの正式な質問票や、診断のためのチェックリストではありません。点数をつけるためのものでもありません。「そういえば…」と思ったら、次の診察で話してみるきっかけにしてください。
つらいときにできること
- 診察で、気持ちのことも話す:「最近、疲れています」の一言からで大丈夫です。
- 完璧を目指さない:毎日すべてを完璧にこなす必要はありません。できていることにも目を向けましょう。
- 治療の負担を見直す:薬の回数、測定の方法、機器の使い方など、負担を減らせる方法があるかもしれません。
- 周りの人に知ってもらう:ご家族などに、手伝ってほしいことや、言われるとつらい言葉を伝えてみましょう。
まとめ
- 糖尿病とともに暮らす中で生まれる気持ちのつらさを、ダイアベティス・ディストレスといいます。多くの方が経験する、自然な反応です。
- 欧州糖尿病学会の2026年のガイドラインでは、診察で気持ちの面について話し合い、少なくとも年1回確認することが提言されています。
- 1型糖尿病では心理的な支援、CGM、AIDが、2型糖尿病では心理的な支援、心理教育、糖尿病の教育が、条件付きで勧められています。
- つらいときは、ひとりで抱え込まず、診察でお話しください。

糖尿病の治療は、長く続くものです。数字だけでなく、気持ちのことも一緒に考えていきましょう。医師だけでなく、看護師や管理栄養士にも、遠慮なくお話しください。
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【参考文献】
Speight J, Hermanns N, Jensen W, et al. 2026 EASD evidence-based clinical practice guideline for assessing and managing diabetes distress among adults with type 1 diabetes or type 2 diabetes. Diabetologia 2026;69:3344–3369. https://doi.org/10.1007/s00125-026-06840-0
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