こんにちは。澤木内科・糖尿病クリニック院長の澤木秀明です。
2026年10月、米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)が、2型糖尿病の治療についての新しい共同報告(コンセンサスレポート)を発表しました。前回の2022年版から4年ぶりの改訂です。
この報告は、世界中の糖尿病診療に大きな影響を与えてきたものです。今回の改訂では、これまで重視されてきた「その人をまるごと診る」考え方をさらに広げ、臓器を守るお薬を早い段階から取り入れる方針が強調されました。

このページでは、原文(Diabetes Care誌に掲載された全文)をもとに、2型糖尿病の患者さんとご家族に知っておいていただきたいポイントを、できるだけわかりやすくまとめました。ただし、これは米国・欧州の医療者向けの報告です。日本で使えるお薬や保険のルールとは異なる部分があります。治療の内容は、必ず主治医の先生にご相談ください。
ADA/EASDのコンセンサスレポートとは?
ADAとEASDは、2006年から共同で「2型糖尿病の治療の進め方」についての報告を出しています。多くの臨床研究の結果を専門家が検討し、「今の時点で、どのような治療が勧められるか」をまとめたものです。
- 名称:Management of Type 2 Diabetes, 2026(2型糖尿病の管理 2026年版)
- 発表:2026年10月(Diabetes Care誌とDiabetologia誌に同時掲載)
- 対象:妊娠していない成人の2型糖尿病の方
- 前回の改訂:2022年
今回の報告は、「血糖値をどう下げるか」から、「2型糖尿病とそれに伴うさまざまな病気を、まるごと診る」という考え方へと、大きく視野を広げています。
変化① 早い段階から「臓器を守る薬」を使う
今回の報告でいちばん大きな変化は、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬などのGLP-1系のお薬(GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチドを含む)を、早い段階から使うことを勧めている点です。
- これらのお薬の心臓を守る効果は、メトホルミンを使っているかどうかに関係なく得られるとされ、「最初に検討する治療」の一つに位置づけられました。
- 動脈硬化による心臓・血管の病気や慢性腎臓病がある方、動脈硬化による病気のリスクが高い方では、HbA1cの値にかかわらず、SGLT2阻害薬とGLP-1系のお薬の併用も検討するとされています。心不全がある方では、SGLT2阻害薬を基本に、心不全のタイプや肥満の有無などから追加するお薬を選びます。
- 一方で、血糖値がそれほど高くなく、肥満の程度が軽く、臓器の障害がない方などでは、段階的にお薬を増やしていく方法も考えられる、とされています。
- メトホルミンやDPP-4阻害薬なども、血糖値をしっかり下げるお薬として、引き続き多くの方にとって価値があるとされています。
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変化② 体重は、血糖値と同じくらい大切な目標に
報告では、体重の目標は、血糖値の目標と同じくらい大切とされています。
- 体重を減らすことが適切な方では、5%以上の減量でも、代謝の改善に意味のある効果が期待できます(体重の目標は一人ひとりに合わせて決めます)。
- 10〜15%程度の大きな体重減少を、特に発症から早い時期に達成すると、血糖値が正常に近づき、糖尿病の「寛解」(血糖値を下げるお薬を使わずに、HbA1cが6.5%未満の状態が3か月以上続くこと)に至る可能性が高まるとされています。寛解は「完治」とは異なり、寛解した後も定期的な検査が必要です。
- そのため、10%以上の減量をめざす集中的な生活習慣の改善も選択肢として示されています。
体重を減らすときは「筋肉」を守ることも大切
GLP-1系のお薬などで体重が大きく減るときは、脂肪だけでなく筋肉も一緒に減ることがあります。報告では、GLP-1系のお薬で減った体重の約25〜40%が、筋肉などの「脂肪以外の部分」だったという研究が紹介されています。
そのため、大きな減量をする方には、十分なたんぱく質をとることと、筋力トレーニングを組み合わせることが勧められています。
変化③ 1日24時間の過ごし方「5つのS」
今回の報告でも、運動だけでなく睡眠も含めた1日24時間の過ごし方が、「5つのS」として重視されています。英語の頭文字(Standing・Stepping・Sweating・Strengthening・Sleep)から、こう呼ばれています。報告では、これらは2型糖尿病の治療の「おまけ」ではなく「土台」であるとされています。
| 5つのS | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 立つ | 座りっぱなしの時間を減らす | 長く座り続けず、こまめに立ち上がる |
| 歩く | 1日の中で歩く量を増やす | まずは現在の1日の歩数に500〜1,000歩を足すことを目安に、無理なく少しずつ増やす。最終的な目安は、ご高齢の方で約6,000〜8,000歩、若い方で約8,000〜10,000歩 |
| 汗をかく | 息が弾む程度の有酸素運動 | 週150分以上(強めの運動なら週75分以上)。週3日以上に分け、運動しない日が3日以上続かないようにする |
| 筋力をつける | 筋力トレーニング | 有酸素運動と組み合わせる |
| 眠る | 睡眠を整える | 睡眠の質・長さ・時間帯(規則正しさ)を整える |
いきなり全部を目標どおりにする必要はありません。今より少しずつ増やしていくことに意味があります。
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食事:「誰にでも最適な割合」はない
- 炭水化物・たんぱく質・脂質の「誰にでも最適な割合」はないとされています。体によい食品を中心に、ご本人の好みに合わせて、続けられる食べ方を見つけることが大切です。
- 食事の「質」と「量」の両方が大切です。
- 地中海食(野菜、豆、魚、オリーブオイルなどを中心とした食事)は、血糖値や心臓・血管への効果がくり返し示されており、特に、心筋梗塞など動脈硬化による心臓・血管の病気がある方では、ご本人の好みや続けやすさも考えながら、優先して検討するとされています。
- 糖質を大きく減らす食事(ケトン食など)は、短期的な効果が報告されている一方、低血糖やケトアシドーシスに注意が必要です。特にSGLT2阻害薬を飲んでいる方は、自己判断で始めないでください。
- 血糖値を下げる目的でのサプリメントは、勧められていません。
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変化④ インスリンとCGMの位置づけ
インスリンについては、これまでの考え方を引き継ぎつつ、新しい情報が加わりました。
- インスリンを始めるときは、基礎インスリン(持効型)から:多くの場合はGLP-1系のお薬の後に導入し、心臓や腎臓を守るSGLT2阻害薬などは続けたまま使うとされています。ただし、血糖値が著しく高い場合やインスリンが大きく不足している場合などは、最初からインスリン治療が必要です。
- 持効型インスリン(アナログ製剤)が優先:中間型(NPH)インスリンより、夜間の低血糖が少ないためです。
- 週1回のインスリン:週1回の基礎インスリン「インスリン イコデク」が登場し、注射の回数を減らせる選択肢として紹介されています。一方、臨床試験では、毎日打つ持効型インスリンと比べて臨床的に重要な低血糖の発生回数がやや多かったことも示されており、量の調整と低血糖への注意は引き続き重要とされています。
- もう一つの週1回インスリン(インスリン エフシトラ アルファ)は、報告では2026年6月時点で未承認と記載されていますが、日本ではその後、2026年9月に、インスリン療法が適応となる2型糖尿病を対象として承認されました。
- すでにインスリンを使っている方では、GLP-1系のお薬やSGLT2阻害薬を加えることで、インスリンの量や体重の増加を抑えられるとされています。お薬を加えたときは、インスリンを減らす必要があることも多いため、低血糖に注意しながら調整します。
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変化⑤ 合併症や持病に合わせてお薬を選ぶ
2型糖尿病の方は、心臓・腎臓・肝臓などの病気をあわせ持っていることが少なくありません。今回の報告では、目・腎臓・神経といった従来の合併症に加え、心不全、脂肪肝(MASLD)、睡眠時無呼吸、心の健康なども含めて、持病ごとにお薬の選び方が整理されました。主なものは次のとおりです。
| あわせ持つ病気 | 報告で示された主な考え方 |
|---|---|
| 動脈硬化による心臓や血管の病気 | 効果が示されたGLP-1系のお薬、またはSGLT2阻害薬を使う。リスクが高い方では両方の併用も検討 |
| 心不全 | SGLT2阻害薬を使う(心臓のポンプ機能の程度にかかわらず)。肥満があり、ポンプ機能が保たれたタイプの心不全では、セマグルチドやチルゼパチドで症状の改善が期待される |
| 慢性腎臓病 | SGLT2阻害薬が土台(尿にアルブミンが出ているかどうかにかかわらず)。効果が示されたGLP-1系のお薬も使う。尿にアルブミンが出ている方では、現在受けている腎臓病の治療に加え、腎機能や血液中のカリウム値を確認したうえで、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(フィネレノン)の追加を検討する(報告ではeGFR 25超が目安) |
| 脂肪肝(MASLD) | 生活習慣の改善が土台。減量が適切な方では、体重を減らすことが重要な治療目標。肥満がある方では、効果が示されたGLP-1系のお薬を使う。肝臓に炎症があるタイプ(MASH)でも、効果が確認されたGLP-1系のお薬を優先して検討し、ピオグリタゾンなども選択肢になる |
| 睡眠時無呼吸 | 肥満がある方では、チルゼパチドなど、効果が確認されたお薬を優先して検討しうる(CPAPなどの標準治療と組み合わせて) |
| 足の血管の病気 (末梢動脈疾患) |
セマグルチドで、歩ける距離などの症状の改善が期待される |
※お薬の名前は一般名です。同じ成分でも、製品・量・対象となる病気によって、日本での承認や保険適用の条件が異なります。
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変化⑥ 年齢・体の状態・心の健康にも目を向ける
- ご高齢の方:年齢だけを理由に、心臓や腎臓を守るお薬の選び方を変える必要はないとされています。一方、フレイル(体の弱り)がある方では、低血糖を起こしやすいお薬(特にスルホニル尿素薬)を減らすことを検討するとされています。
- 若くして発症した方(40歳未満で診断):合併症を防ぐため、早い時期からの治療が大切です。特に過体重や肥満がある方では、体重を減らす取り組みが欠かせないとされています。
- 心の健康:うつ、糖尿病による心の負担(糖尿病ディストレス)、偏見(スティグマ)などは2型糖尿病の方に多く、治療にも影響します。早めに気づき、支えることが大切とされています。
- チームで支える:医師だけでなく、看護師・管理栄養士・薬剤師などのチームで、ご本人と一緒に具体的な目標を決め、定期的に見直すことが勧められています。
お薬を増やしても血糖値が下がらないときは
複数のお薬をきちんと使っても血糖値が下がりにくい方では、コルチゾールというホルモンが過剰に出ている状態(高コルチゾール血症)など、別の原因がないかを調べることも検討するとされています。また、診断時やその後も定期的に、1型糖尿病(ゆっくり進行するタイプを含む)や遺伝子が原因の糖尿病などの可能性を考えることが大切とされています。
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日本の患者さんに知っておいていただきたいこと

私がいちばん大切だと感じたのは、「血糖値だけを見るのではなく、心臓・腎臓・肝臓・体重・睡眠・心の健康まで、その人の全体像を拝見する」という考え方です。気になることがあれば、次回の受診時に「自分の治療はどうですか?」と遠慮なくお尋ねください。一緒に考えていきましょう。
▶澤木内科・糖尿病クリニック公式サイト(糖尿病・CGM・インスリンポンプの診療をおこなっています)
まとめ
- 2026年10月、米国糖尿病学会と欧州糖尿病学会が、2型糖尿病の治療についての共同報告を4年ぶりに改訂しました。
- 多くの方で、SGLT2阻害薬やGLP-1系のお薬を、診断時からを含め早めに使うことが勧められています(日本では、病状や保険のルールをふまえて主治医が判断します)。
- 体重の目標は血糖値と同じくらい大切です。減量が適切な方では、10〜15%の減量で寛解の可能性も高まります。減量中は筋肉を守ることも大切です。
- 運動と睡眠を含む1日24時間の過ごし方「5つのS」(立つ・歩く・汗をかく・筋力をつける・眠る)が、治療の土台として重視されています。
- インスリンは基礎インスリンから始めるのが基本です。特にインスリンを使う方では、CGMの活用を検討するとされています(日本の保険適用は機器や治療内容によって異なります)。
- 心不全・腎臓病・脂肪肝・睡眠時無呼吸など、持病に合わせてお薬を選ぶ考え方が整理されました。
- 日本ではお薬や保険のルールが異なります。治療は必ず主治医とご相談ください。
出典
Davies MJ, Aroda VR, Bajaj M, et al. Management of Type 2 Diabetes, 2026. A Consensus Report by the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD). Diabetes Care 2026. https://doi.org/10.2337/dci26-0141

